本

『こんなふうに教わりたかった! 中学数学教室』

ホンとの本

『こんなふうに教わりたかった! 中学数学教室』
定松勝幸
SB新書250
\730+
2014.2.

 代々木ゼミナールの数学講師であったという。実績と定評のある人だが、本については殆ど携わったことがないようなことが書かれていた。ある意味でもったいない。これはなかなか親切な本である。
 いわば同業として、得るところはあまりないかもしれない、との思いから読んでみた。実際、論の過程や結論についても、ことさらに目新しいことはないわけで、私も同じようなことを考え、同じように教えている、と言えないこともなかった。観点が違うというほどのことはなく、印象としては、ごくわずかな数の問題を、ことさらに丁寧に多大なページを使って噛み砕きつつ説明しているものだ、というように見え、読み進めるという点では飛ぶように読めた。内容を知っているからだ。
 では、それは面白くなかったのか。いや、否である。これが面白かった。学ぶところがなかったのか。否である。学ぶところがいくつもあった。
 違いの1つは、高校の数学である。私はこれを教えていない。もちろん無知であるわけではないが、基本的に細かな点には触れておらず、まったく別世界という捉え方で見ていた。が、その高校の数学の内容をひとつの目的として、中学数学の捉え方が、ずいぶん違うのである。
 それをここで明かしてしまうのは、商売妨害となるだろう。関心のある方、中学生に数学を教えるその人が直に読めばよいと思う。私以外のそういう方はご承知のことがたくさん書いてあるのだろうが、しかしやはり何か見習ってよいようなところに出合うのではないかと思うのだ。
 その意味では、これはもちろん中学生が読んでよい、ということになっているが、基本線はやはり大人だろう。題名にもそのメッセージが現れているといえよう。そして、塾教師にもなお響くものがある、ということを伝えるならば、それなりの宣伝になるだろうか。
 かといって、ここにあるものをそのまま受け売りのごとく中学生に説明すればよいというものでもなく、プロはもちろんそのあたりのことは分かっている。塾ならば、そのクラスの出来具合あるいは理解の度合いというものがあるだろうから、一概に話せるものではないことは、ご承知の通りだ。
 いやいや、私ばかりが感心しているのかもしれない。有能な塾教師は、一笑に付すかもしれない。だが、何事からも学ぶ気持ちがあるということで、私は本に出合うのが楽しくなるし、期待ができるということになる。もちろん私のように無知で了見の狭い者だからこそなのかもしれないが、知らないことを教えてくれる本を楽しみたいと思っている。
 なお、本書は、まず図形から入り、割り算の意味、因数分解から方程式、関数に一度入った後また方程式に戻るのは、ちゃんと意図があり、最後に確率で締める。練習問題もあり、解説も詳しい。この中で、数概念自体については触れる機会がなかった。ページ数の制約もあり、やむを得ないだろうと思われるが、正負の数や有理数と無理数、とくに平方根の概念などについての、著者の説明を、また他の機会で知りたいとリクエストしておくことにしよう。




Takapan
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