本

『中学英語から始める洋書の世界』

ホンとの本

『中学英語から始める洋書の世界』
林剛司
青春出版社
\1360+
2020.10.

 中学とタイトルにあるが、高校生向けでもある本である。目次を見ると分かるが、中学から学年を追って、読めると思われる本が秩序良く並べられていて、最後は大学受験として申し分のないところにまで行き着く。
 著者は、大学で英語教育をしているが、元々翻訳畑の人であり、著書を通じて「多読」を勧めている。この方針に則り、福岡でもその「多読」を看板にして、生徒に英語を教えている教師がいる。非常に熱心で、たくさん読む、たくさん英語に触れることで、能力を高めることに成功しているようだ。
 この本では具体的に、様々なレベルを示しつつ、良い本を紹介していく。その一冊一冊が丁寧に紹介されるのがありがたい。実際に読もうとするときに、これを読んでみたい、と思わせる、魅力的な案内となっている。
 それは、そのお話の内容もさることながら、実際の英文をいくつか取り出して、その読み方を教えてくれることで、いっそう親しく感じるようになるというものである。その例示された英文が、自分のレベルに合えばチョイスしやすいということになるだろう。
 但し、背伸びする必要はないという。自分が楽に読めるレベルを選ぶのがよいのだそうだ。無理して、いくつも知らない単語が出て読むのが止まったり、文法的に進めないような壁をもつものは避けるべきであるが、それにも増して、楽勝レベルでやってみるのがよいそうである。なにしろ多読である。もちろんいちいち訳して読むことはありえないし、音声に心の中で変換しながら読むという必要もない。目がどんどん駆け抜けていくようでありたいし、そこに効果があるのだというから、もし多少の知らない単語があっても、絵本の絵から、また類推から、話の筋から、およその見当をつけて読み進めばよいのである。すいすい読めたという実感が、自信にもなるし、実のところ読むコツをからだで覚えていくことにつながるのだろう。
 本書にも、文法的なアドバイスもよくなされていて、たんにこの本で英語を学ぼうとすることも可能である部分がある。たとえばある本では、続く二文において、be going to と will とが並んでおり、このニュアンスの違いを知ることにより、より深く読み取ることができることが期待される。いい説明だと思う。
 最初は分かりやすい絵本や、絵の多い本が多い。中にはすべて現在形で書かれたものもあるという。本当に中学生で、いけそうだ。だが後半では映画の原作なども混じってきているから、実際本格的なものとなる。高校生の上級というところだろうか。その映画についての話もあるし、それぞれの本のただの紹介としても優れたものであるから、英語を学ぶ人のみならず、英語を教える立場の人にとっても、非常に参考になる記事ばかりだということになるのではないだろうか。手許にあって損はない。これらの本は物語ばかりであるから、特別な予備知識を要したり、専門用語が飛び交うようなこともない。誰でも親しめるということで、勧められてうれしいというのもあるが、教育する側も、積極的に活用できそうな素材がたっぷりとある。
 ただ、惜しむらくは、これらの本の索引がないので、後から探すときに不便を覚える。目次にも、本のことは書かれていないので、たとえば書店で本を見たので購入しようかと思ったとき、どのレベルであったのか、本書をすべてめくらなければ探せないということになる。もともと雑誌に連載されていた記事を編集したものとはいいながら、このような形でまとまった時点で、索引を設けてほしかった。できれば、書名と著者名とで検索できるような索引があると、実際的に利用しやすいと思うのだが、次の発行から改善できないだろうか。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります