本

『イエス・キリストの再発見』

ホンとの本

『イエス・キリストの再発見』
百瀬文晃編
中央出版社
\1748+
1994.7.

 なかなか手に入りづらい本ではないかと思う。地味だし、古書店の棚で安い価格で発見したがために手に取ることになったが、そうでなければわざわざ探しもしなかっただろう。念のためネットで検索すると、案外何冊か、たいそう安い値段で入手できそうなことが分かった。それでも数冊単位であるから、もしこの記事をお読みくださって、注文なさる方がいらしたら、早い者勝ちということになるだろう。
 サブタイトルに「信仰の理解を深めるために」と書いてある。さして特徴のないキャッチフレーズであり、販売上力になるものではなさそうだが、誠実に内容を表していることは間違いないだろう。
 上智大学での進学講習会の講演記録であるという。12名の研究者が原稿を寄せているが、互いに直接関係がないものだから、様々な立場から、様々な専門分野の視点に基づいて、研究の最先端に関わるようなことが紹介され、また主張されているものである。案外、このような形での提言は一般書にはないかもしれず、神学界の動向を知る機会として貴重な素材となるものである。だからまた、これが20年も後に読まれた私のような場合でも、学べるものとして十分助かるものであったと言えるのである。
 しかしまた、発表当時、斬新な理解であったかもしれない部分もあり、その語否定された、などという事柄ももしかするとあるかもしれない。「はしがき」にも、「批判的にお読みくださるようにお願いいたします」と書かれている。それでも、現在の神学の動向すら知らない私にとっては、それぞれに耳を傾けて、受け容れられる部分は受け容れ、分からない部分は課題としておけばそれでよいのかもしれないと思った。
 なによりも、「神の国の建設のため」の力となれば幸いだという点では、編者の声に私も合わせておこうと思う。
 上智大学であるからカトリック寄りかとも思ったが、必ずしもそういうことはない。だから、決してこれは教義を紹介しようとか、教義についての護教的な言明をしようとかいうものではないことが分かる。やはり、神学の成果をコンパクトにもたらしてくれているとすべきである。尤も、上智大学の教授などが大部分を占めることについては間違いがないのであるが。
 また、講演の性質上、一般的な問題意識などを、聞いて一度で共有できるように、分かりやすい神学的常識ともいえるような事柄を語ることから始めている傾向があり、その意味でも、まずは学ぶために役立つように思えるのである。
 初期ユダヤ思想との関係、イエスは歴史的にどこまで知ることができるか、ヨハネ福音書の特殊な捉え方を整理すること、パウロがイエスをどう見ていたか、こうしたことから、倫理や救い、秘跡といったこととキリストとの関係に至るまで、内容は多岐にわたる。当時で1800円というのは高いかどうか確証はないが、350頁の厚みは読み応えがある。キリスト教界で、とくにカトリック系の研究はどうなっているか。プロテスタントの私からすれば、この開示はありがたい。神学にカトリックもプロテスタントもないというのが理想ではあるのだが、実際カトリックの神学研究については、少し縁遠い面があった。聖書の研究においては、カトリックの中に実に優れた成果があると聞いているし、実際垣間見た論文や思想は確かにそうであった。こうした、一時出版され、その語日の当たらない立場にあるような本の中には、もっと読まれて話題にされてよいという性質のものもいろいろあるだろう。そうした本についても、このような小さな紹介ができること、それが人目に触れて新たに読んでみたいと思われる人が起こされること、そこに、ダイナミックな聖書の理解がつながっていくことを繰り返し願っている。




Takapan
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