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『イスラエルを知るための62章 第2版』

ホンとの本

『イスラエルを知るための62章 第2版』
立山良司編著
明石書店
\2000+
2018.6.

 第1版は2012年に出ている。その後の歴史的転換を経て、新たな状況に合わせた文章が増えている。
 章立てが明確で読みやすい。また現代のイスラエルを知るのに、これに優るものはあるまいと思われるほど、分かりやすく、また適切な解説がなされているのではないかと思われる。
 イスラエルの過去を聖書に基づいて説明する、ということに多くの労力は示さない。もちろんそれに触れないわけにはゆかないのであるが、聖書読みがよくするように、古代の話ばかり得意になって聞かせるということではないのである。それは、これがまさに今の生きたイスラエルを理解することを目指すからである。
 このシリーズは、世界各国各地域にわたって、同様に組まれており、イスラエルもその中のひとつに過ぎない。しかし、聖書の世界の要にあたりこの国の土地の理解は、もしかすると全世界、全人類の将来を担うものとなりかねないものだから、この一冊の意味は大きいことこの上ない。
 シオニズムのあたりは、現代イスラエルの原点でもあるから、そこは触れる。そして移民から第二次大戦の悲惨な迫害、その後中東戦争を経ての現代という概観をまず行ったこと思うと、次は「歳時記」である。これはイスラエルに暮らしたり、そこに幾度も足を通わせた者でなければ分からない。こればかりは、いくら聖書を読んだところで知らないままなのである。ユダヤの年中行事くらいなら調べれば分かるかもしれないが、信仰的とは言えない立場のイスラエル人の日常生活に迫るというのは、聖書好きからは苦手なことである。出産や子育てとなると、もう観念的には何の知識もない。教育をどう考えているか。また医療や福祉はどうなっているのか。体外受精も保険で普通にカバーできるという姿は、日本の常識からすれば考えられないものである。
 多言語社会であるというのも、なんとなく聞いたような気はするのだが、同じユダヤ人という名前でも、どういう方面からシオンに入ってきたかという点だけでも、様々な由来があるものである。いまや5人に1人は国外出身なのであるという。そイスラエルではSNSが非常に盛んであるが、共同社会の基盤などが疎かにされていることにはならない。ともかくその土地その国に特有の事情や常識というものがあるのである。
 政治の現状もきっちり解説される。経済ももちろんである。これは、むしろビジネスパーソンにとっては、過去の歴史やメシア像などより、よほど大切な項目であると言えよう。日本との関係のためにも一章割いてある。日本だけが大切なのではないが、私たちにとりどうなのか、やはり知るべきであろう。
 文化や芸術についてはよく近づきやすいかもしれない。村上春樹がイスラエル章を受けたときのエピソードもここに触れられている。もちろん音楽や映画などにつてい実情がどうであるのかも紹介してあるし、ただの生活というよりも文化的活動において、民族や人々の一番の特質が現れてくるものなのかもしれないから、私は案外興味深く読ませて戴いた。もちろん、政治や経済が世の中を変えていくことも分かってはいるのだが、文化が世界を変えていく、というのも決して嘘ではないだろうと思う。
 そして外交問題と中東和平へと、再び重い事柄に舵が取られていく。いったいイスラエルは、ここからどこに向かうのであろうか。というのも、イスラエルに住む人がすべてユダヤ人であるわけではなく、ユダヤ教信仰をもっているというわけでもないのであって、イスラム教の信者も多々いるのだが、そのほうの出生率が高く、このままいけばいつかイスラエル国家内での多数派になりかねないとさえ懸念されているそうだ。数の上で少ないユダヤ人が政治を牛耳るとなると、これは一種のアパルトヘイトとなりかねない。かといって、民主多数決に基づくと、イスラエルがイスラム国家になってしまうかもしれないのである。これを正統に危機感をもって迎えるかどうかが問われているのだという。
 すでに2012年に出版されていたのが、2018年に「第二版」としてバージョンアップされた。今後も数年に一度変わらなければならなくなる。私たちはその改訂を見守りながら、改訂される内容を、私たちがつくるのだという自覚をもたなければならない。これはおそらく、世界平和への道であるのだ。
 読み応えがあり、それでいて読み進み安い。イスラエルを知るための、というタイトルは決して偽りではない、と私は感じている。




Takapan
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