本

『イスラエル』

ホンとの本

『イスラエル』
臼杵陽
岩波新書1182
\819
2009.4

 パレスチナ問題などと誰もが口にはするのだが、その内実を説明できる人は、そう多くはない。私など、旧約聖書を信じるなどと言いながらも、近年のイスラエルの政治的状況については、素人である。
 だから、岩波新書で正面切って「イスラエル」だときたら、手に取るのを躊躇せざるをすなかった。でも同時に、それは避けて通ることのできない本だという理解も、たしかにしていたつもりだった。
 信仰的なことを抜きにして、現実のイスラエルを取り巻く政治的状況を、どうにかして、一度整理しておかなければならなかった。いや、それは私の問題としてではなく、世界を動かす原理として、探っておかなければならない事柄であったはずだった。
 元々、東西の交通の要地にあったイスラエルは、紀元前遙か以前から、周囲の大国の興味の的であった。そこを手に入れようと大国が北から南から、軍を押し寄せてきた。今もまた、東西の対立というものを持ち出すのはもはや時代遅れではあるが、世界を動かす重要な原理となりかねない形で、イスラエルは存在の光を放っているといえる。
 シオニズムに始まるその不死鳥のような20世紀の国家形成と、その後現代に至る中で有することになった様々な問題。著者は、得意な政治史の流れから、イスラエルという国の表裏様々な面をこの小著で取り上げようとしている。それは、聖書の引用をまずしないという形で行われているために、聖書を知らない読者にも抵抗なく読めるはずである。しかし、厳格な原理主義と現実重視のグループとの違いは、さほどユダヤ教やキリスト教などに精通していなかったとしても、理解困難というわけではない。
 建国60年を超えた近代イスラエルは、今、分裂の危険を内包しているという。政治的な意見の相違は、いくつかの分裂を生んでいる。こてこてのユダヤ教の立場もあれば、現実主義者もいる。かといって、そもそもユダヤ教には興味がないという立場もあるわけである。宗教と政治をタネに、あるいは科学の問題を重ね合わせる中で、これからのイスラエル近未来が占えるという具合であるから、アメリカの新しい大統領の中東政策のニュースと関連づけながら、私たちはこの終末にも関わろうとするユダヤの国を、つねに見張っている必要があるものだと考える。この本は、相当に政治状況から述べる、近代イスラエル史であった、ということになるだろう。




Takapan
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