本

『となりのヘルベチカ』

ホンとの本

『となりのヘルベチカ』
芦屋國一
山本政幸監修
フィルムアート社
\1600+
2019.9.

 マンガである。多少の解説文はあるし、各頁の四コマの横にも、三行の解説が入っている。6つの四コマと背景の解説、そして見本、あとはその項目の表紙となるイラスト、こうした構成でほぼ最後まで突っ走ることになる。
 サブタイトルは「マンガでわかる欧文フォントの世界」。そう、このキャラクターは、すべて「フォント」なのである。
 というと、見ていない人には何が言われているのか見当がつかないかもしれない。しかし、「ヘタリア」をご存じの方にはピンとくるはずである。あれは国家が擬人化してやりとりをする、けっこう諷刺が伴うものだった。このフォントも、それぞれフォントをイメージしたキャラクターが設定され、その性質を性格のように描き出す。
 丸栖という営業担当の女子が、突如、いなくなったデザイナーの代わりにロゴデザインを頼まれる。仕方なく調べ始めたが、書体について何も知らない丸栖は不安なままに、「いっそ人みたいにもっと身近でわかりやすい特徴があれば」と溜息をつく。そこへ背後からの声がした。男子がいた。自分は書体だという。ヘルベチカ、これが本書のタイトルに伏せられている。ヘルベチカは、丸栖を書体研究サークルへ案内する。そこで、様々な書体キャラと出会うことになるというわけである。
 いやぁ、参った。書体の一つひとつの背景についてなど、知らずに書体を適当に選んで文書や案内を長年作っていた私である。レタリングを少々囓ったこともあり、サンセリフやローマン体などについて、一定の知識はもっていたが、それらが何のためにいつごろどのような背景でできたかなど、知る由もなかった。たとえその説明を読んだとしても、頭に入ってきやしなかったであろう。それが、このマンガにより、先の「人みたいに」という問いかけのとおりに、ばっちり頭に入ってしまったではないか。
 マンガだから読みやすいだけで、面白おかしく曲解して事実を伝える可能性がある、という批判もあるだろう。勝手に書体にイメージを植え付けて、読者を惑わすだけだ、と考える人もいるだろう。しかしまた、それで広く知られること、関心をもってもらえることに良い効果を捉える見方もあるだろう。書体に思い入れがあったり専門的知識があったりすると、軽々しく扱われるのを嫌うことが多いかもしれない。でももしそこに目を瞑ってくださるなら、理解のすそ野を広げることに貢献するかもしれない。私の見立てでは、本書は、そこそこフォントに理解があったり知識をもっていたりする人が手に取りやすいのではないかと思う。そして曖昧なところがクリアにされ、こうしたフォントについてさらに自信をもって使っていくように仕向けられていくような気がする。勝手な思い込みかもしれないが、これを受けた私たち一人ひとりが、また楽しく、またリスペクトを払いながら、フォントを使わせてもらおうかと思う。
 なお、最後に特殊なものとして、スクリプト体やブラックレター体が並べられていたが、ドイツのいわゆる「髭文字」については、個人的にもう少し詳しく聞かせてもらいたかった。なにせカント全集のアカデミー版は、いまなおこの髭文字で堂々と出版されているのだから。




Takapan
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