本

『堀潤の伝える人になろう講座』

ホンとの本

『堀潤の伝える人になろう講座』
堀潤
朝日新聞出版
\1400+
2018.3.

 NHKに入局しリポーターやキャスターなどを手がけて退局後、NPO法人「8bitNews」から発信を続ける。報道活動や著作に忙しいジャーナリストである。
 おそらくこれは、中学生から高校生あたりへのメッセージとして綴られているのかと思うが、もちろん大人が読んでも何も問題はない。重要なのは、実はタイトルに、吹き出し形式で「SNSで一目置かれる」というフレーズが最初についていることだ。
 SNSの場で、「いいね!」がついたりフォロワーが増えたりすることは、多くの人の願うところであろう。とくに若者は、よほど仲間内の連絡のために使っているのでなければ、これが大きな目的のようになる可能性が高いかもしれない。しかし、伝えることには不安が伴うものでもある。トラブルの声を聞くとき、自分はどうなるか保証もないものだから、たとえば炎上や自分の身に及ぶ危険ということも視野に入ってくるだろう。そういった人に、本書は適切なアドバイスができるものとなっていると思われる。
 また、ジャーナリストとは何か、という方面にも話が進むので、その道を考える人たちにも朗報となるだろう。
 さて、テーマは「伝える」である。何を伝えるのか。現場にいてこその情報であり、またそれが価値をもつことになるだろうという、当然のことを踏まえながらも、それをどのように伝えるか、やはりそれはなんとなく始める人とプロとは全く違う。そして、その違いに気づかせるコツというものも、もちろんプロは持ち合わせているといえる。
 たとえば、言及している当の対象を大きなもののままにせず、小さく絞るというモットー。「学生は……」と書き始めるとなんだか大したことを書いているように見えるが、そんなすべての学生に当てはまることであるまいし、大きく壇上に振り構えても、むしろ大袈裟に、また嘘も交えたものとなってしまう。それよりは、より小さな、具体的な主語を用いていくほうが、むしろ普遍性へと開かれていくのではないだろうか。「A大学のB学部の男子学生は」のほうが、まだ真実性へと近づいてくる。
 そして、そうした情報にこそ、何らかの共感が芽生えてくるものであろう。万人受けを配慮するよりも、誰かの心に触れるということが求められてよい。こうしたことは、大人にしても、頭では分かっているのだ。しかし、冷静にそれを実行し続けられる人は稀であろう。
 そもそもメディアというものはどういうものなのか、から始まって、社会を形成する上での情報の意義を考えるなど、本書は決してハウツーノリのものではない。見事な教育書となっている。
 こうした基本の理解の上で、具体的にどのようにするか、がようやく始まるのであって、だからこそ、本書の意義があるといえる。「伝えよう」だけではないのであって、「伝える人になろう」というのである。それは継続されなければならない。また、信用の置ける存在にならなければならない。単に受け手の数が多いかどうかというのでなく、誰かしら受ける人に正しく伝わるようでなければならない。誰かを傷つけるような伝え方では拙いのである。
 そして終わりのほうで、ようやくテクニックが紹介される。これが知りたかった、という人も多いだろう。だが、ノウハウを知ることだけで、伝える役割が果たせるのかどうか、は明らかに怪しい。悪いが私はここは軽く読み飛ばすように今回進めさせてもらった。
 本当の最後に、再びメディアと社会について考えるひとときが送られる。また、編集長やコピーライターとの鼎談で締め括られ、伝えることの現場の空気を知らせてくれる。
 いろいろな形で、伝えることについて考えさせてくれるし、情報を与えてくれる。だが、問題はここからだ。私はどう伝えるか。また、そもそも何を伝えるのか。相変わらず、何をしてよいか分からないままに立ちつくすようでいるかもしれないが、本書を経てきたとすれば、何かが違うはずだ。社会が視野に入ってくる。一定の知識も身についていることだろう。これは、本当なら、すべてのSNS発信者が心得ておかなければならないことであるはずなのだが、あいにくできていないという事情が現にある。やはり、単に「やり方」ではなしに、そもそも何か、を考えることなしには、物事をまともに始めることはできないものなのだ。




Takapan
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