本

『グレゴリオ聖歌の世界』

ホンとの本

『グレゴリオ聖歌の世界』
リチャード・L・クロッカー
吉川文訳
音楽之友社
\6300+
2006.4.

 フタバ図書の古書の棚で、これを100円で見かけたら、買ってしまうだろう。CD付きである。
 300頁を超える本格的な専門書である。ように見えたが、「音楽を専門に学んだわけではない、ごくふつうの読者を対象にしようとする姿勢が明確である」と、「訳者あとがき」は記している。いやいや、それはないだろう。専門用語が居並ぶし、特殊な楽譜、音の特徴がテクニカルに、淡々と語られてゆく。これが「ごくふつうの読者」を対象にしたのなら、私は「ごくふつう」の遥か下を這いずり回らなければなるまい。
 グレゴリオ聖歌は、典礼そのものではないにしても、しばしば典礼と共に語られてきた。こうした説明のところで、ハッとさせられるものがあった。「信仰」は「cult」というのだそうである。いまはニュース・メディアで「カルト」というと、「奇妙な、邪悪ですらあるかもしれないグループに対して使われているが、本来は公の場での崇拝を意味するラテン語からきた一般的な用語である」というのである。いわゆる「礼拝」そのものではないかもしれないが、聖人や殉教者といった人間に対する崇拝も含み、また異教徒の神々に対するものではない唯一の神への崇拝にももちろん使われる。そして「ローマ・カトリックでは、原罪に至るまでこうした言葉の使い方を続けている」というのである。
 著者にとり、グレゴリオ聖歌とは「まず歌われるべき音楽である」そうだから、その「音空間」を大切に考え、あの独特の「斉唱」が展開したことを含め、音楽的な特徴を、それはそれは専門的な角度から掘り下げてゆく。正直ついて行けないものがある。
 しかしそれでは紹介にならないから、凡その叙述の流れを辿ると、その後、旋律やリズムのことを説き、ローマの政治的背景やヨーロッパ音楽へのつながりを明らかにする。賛美の初期から、礼拝でどのようであったのかについても教えると、修道院に特化した形で解説も進む。そうして、最後は「記譜」という形で、具体的にラテン語の歌詞と日本語訳を並行させ、一つひとつの歌について解説を細かく施す。
 まことに、立派な書である。どうして私はこんな本を手に入れてしまったのだろう。巻末の注記も細かいし、また「用語集」が充実している。本書を読んでいく上で、さっぱり分からない専門用語については、絶えずここを参照すればよかったのだ。この用語集にも「本書の入門書としての目的から、多くの音楽用語は必ずしも必要ではなく、なるべく一般的な言葉で言い換えるように努めた」ととどめを刺してくる説明がなされていたが、「専門用語に通じた読者は専門用語が使われていないことにしばしば不満を感じ」るだろうと述べ、用語に通じていない読者にも配慮したことが記されている。その「用語集」の最初には「ア・カペラ」、これならまだついて行けても、「アクラメーション」「アーティキュレーション」「アニュス・デイ」と並んでくると、それが本文で平気で使われていたことに驚愕する。
 もちろん、このような本では、「索引」が必須である。
 いやはや、世界は広く、深い。




Takapan
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