本

『新版 ゴスペルの本』

ホンとの本

『新版 ゴスペルの本』
塩谷達也
ヤマハミュージックメディア
\1785
2010.4.

 大学のときに初めて出会ったという、ゴスペル。そこから道が拓けていく様子が、この本のエピローグに記してある。あるいは逆に、ここからこの本は読んでみたらいい。
 気取らぬ語り口調、それはゴスペルの精神そのもの。自分を飾る必要はない。神の前では、すべてが知られている。ただ神に向かうこと、揺さぶられる魂から発されるメロディを、声を、出してみること。すると、隣りにいる人ももしかしたら同じものを感じていて、一つの声に重なっていくかもしれない。そのことがすなわち、神がそこに存在することの、間違いのない証明であると言えるのかもしれない。
 この本は、友だちが語りかけるような、そんなゴスペルの本である。まさに、タイトルにあるそれ以上のものでも、それ以下のものでもない。
 ゴスペルの現状が、ラフな形で紹介される。その起こりないし歴史、名盤、かつての名シンガーも網羅される。とりあえずゴスペルについて何かを知っていると言えるためには、この本がひとつあればまず問題はないだろうと思われる。それほどに、よくできた本である。
 多くの人との対話も収められている。案外そこが、命ある息吹を感じさせるものとなっているのかもしれない。その意味で、著者が知識を紡いで書きならべた部分が少ないにも拘わらず、全体的にエネルギッシュなものを伝える一冊となっているのだろうか。写真が豊富で、サイズは小さいがちょっとしたマガジンという具合だ。
 著者自身が果たして信仰をもっているのかどうか。どこかに書いてあったのかもしれないが、私は見落としたようだ。かつて歌い始めたころには、むしろキリスト教には反発すら感じていたというようなことは記してあった。ICU(国際基督教大)を経ているから、そういう環境の中で、福音がとにもかくにも耳に入っていたのは確かであろうが、それは音楽として、著者のからだを、魂を揺さぶったのである。そして、そのような器として活かした。その心の中が明らかにされてはいないにしても、まずはそれで十分であるのだろう。
 ゴスペルを、ただの音楽だとして紹介している様子は、ここにはない。神からのプレゼントとして、神への言葉として、確かに示している。だから、このゴスペルの本には命がある。アメリカの教会の様子や、アーサー・ホーランドというから少し違ったタイプではあるにしても、日本の牧師の声も取り上げている。教会という組織がどうのというよりも、人々と神との間をつなぐものとして、ゴスペルが用いられ、渇いた魂が潤されていく様が十分に描かれている。本のどの頁からも、実際にゴスペルソングが聞こえてきそうである。
 本だけで頭でっかちになるのもどうかとは思うけれど、これは確かにエネルギッシュな本である。ゴスペルを歌う人はぜひお手元に。




Takapan
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