『福岡市のトリセツ』
昭文社
\1600+
2025.4.
類書に『福岡のトリセツ』があり、本書に先立つこと5年前に出版されている。一瞬、同じタイトルに見えた人もいるだろうが、今回は「市」である。福岡市内の歴史や地理に限定されている。地元の人のほかには関心が湧かないかもしれないが、福岡に旅する人は少なくないから、覗いてみても意味がよく分かる人もきっといるだろう。
100頁余りの中に、カラー写真と解説がふんだんに盛り合わされており、そこは地図の昭文社であるから、地図もよく活用されている。福岡市に生まれ育った私としては、土地勘もあるし、当然知っていることも多い。がまた、全く知らなかったということもたくさんあり、見ていて実に愉しい。
まず懐かしい写真を概観するのに溜息が出そうになるが、それは頁をめくる最後まで途切れずに続く。
最初は本領発揮の地図から、地理的な位置づけを見せる。実のところ、その最後にある「警固断層」は深刻である。地震の多い日本の中でも最も危険だと言われることがある。しかもこの断層は、福岡市の中枢部の天神のど真ん中を通っている。呑気にしてはいられないはずなのに、現実の都市はそこを中心として走っている。都市機能をここから持ち去ることは、事実上できないのだ。
章立ては、ただの時間軸というわけではなく、いまの地理の話題の次は、鉄道・交通網のことになる。博多駅の昔の位置についてでさえ、話には聞いたことがあっても、場所についての認識はなかったくらいである。地下鉄や宮地岳線の延伸計画についても、実際知らなかったし、三社詣が鉄道の都合によっていたなどという背景も、気づいていなかった。嵐が有名にした、宮地嶽神社の「光の道」を先般訪ねたが、筥崎宮にもそういうのがあったことも知らなかった。この辺りの事情については、私は相当疎いようである。三大祭りのうち、放生会(や)が最も古いのも、言われるとなるほどという感じである。
それから、歴史にまつわるあれこれの章に入る。櫛田神社の謂れについてはいろいろ説があるようだが、伊勢からのものが紹介されていた。同時に、佐賀の神崎由来という説があることにも触れられていたが、これは佐賀で暮らしたことのある父はよく知っていた。戦国時代の福岡の姿や、日本最古のメディカルタウンが蔵本辺りにあったことなど、地元の者には興味津々であろう。米軍の痕跡があちこちにあることは、それなりに分かっていたつもりだが、こうして示されることにより、改めて戦争というものについて考えさせられるものである。
また、その歴史の一貫として、福岡藩のこと、福岡市の誕生のこと、国際都市への歩みなど、知っておきたいことも取り上げられている。ここで、福岡市の7区について紹介されるコーナーも現れる。南区の芸能関係の記事は他の地域の人にも馴染める内容であるかもしれないが、福岡を県にまで拡げると益々、そして福岡市内に限ってもね芸能界で知られている人は数えきれないほどいるから、この南区でも、スポーツ関係が多く取り上げられていて、頼もしい。
最後の章は、天神の発展や、懐かしい博多パラダイスなど、ある意味で庶民には最も親しみのある世界かもしれない。特に、ごくわずかな時間しかそう呼ばれていなかった「博多パラダイス」は、私もいままずその呼称が口を突いて出てくるのだが、そのことは本書にも説明されていた。くすりと笑ってしまう。西鉄ライオンズについて、簡潔ながら十分な情報がここで伝えられているのも興味深い。一瞬ではあるが、福岡にプロ野球球団が二つあったときもあったのだ。屋台について、フェスについて、そして忘れてはならない、うどん・そばの発祥についても触れられている。また、各章末のコラムの一つではあるが、めんたいロックが挙げられており、喫茶照和も懐かしい。
最後を飾るのが、家庭ごみの夜間収集であるのには驚いた。確かに東京のワイドショーが、時々びっくりしたように報道の穴を埋めることがあるが、世界初とは知らなかった。私たち地元の人間にとってはあたりまえであったのに、それほどだとは。働く人にとっては真夜中というのは辛いだろうが、都市機能のためには非常に合理的であることを、福岡は真っ先に実践していたのだ。
話題は尽きない。これほど地元に密着した地理と歴史の本も少ない。売り出した頃から、福岡各地の書店では、目立つように平積みになっている。

た
か
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