本

『フィボナッチ』

ホンとの本

『フィボナッチ』
ジョセフ・ダグニーズ文
ジョン・オブライエン絵
渋谷弘子訳
さ・え・ら書房
\1575
2010.9.

 驚くことに、これは絵本である。深い渋い色のクラシックなイメージの絵は、たしかに中世の雰囲気を伝えている。ただし、当時の国名や数字のデザインではなく、今の子どもたちに分かりやすいように現代のものに直してあるという。
 サブタイトルは「自然の中にかくれた数を見つけた人」とある。
 中学入試にもよく登場するその原理、いわゆる「フィボナッチ数列」の生みの親の物語である。12世紀末から13世紀にかけてを生きたイタリアのこの人物、実はその生涯については殆ど明らかになっていないという。わずかに遺る資料から掘り起こして、想像を交えて構成したのが、この絵本である。子どもとしての立場から共感できるように、よくつくってある。数という一つの才能に恵まれた少年が、他のことができない、他の人と違うことを言うから、と「のうなし」とバカにされ、受け容れられない様子が描かれる。だが、この少年は、数学史上希に見る発見をしたのだ。
 いや、人類における発見というばかりではない。彼が見いだした数列は、自然の原理でもあったのだ。
 生物が、細胞を増やしていく。そのとき、この数の原理に従って生長を遂げていく。それゆえ、花びらの数や種の並び、渦巻きの生成において、この数が適用されている事実に、フィボナッチが気づいていく。
 はたして、それが歴史的事実であるのかどうかも分からない。ただ、この数列が、たしかに自然の原理の一つとなっていることは、疑いようもない事実なのだ。
 絵本である。だが、大人が見るべきであることは、私は常々語っている。そして、子どもも手に取ってほしい。数理に関する関心からもそうしてほしいが、それよりもなお、自分の中に与えられた才能、可能性というものに目を開かれ、それに努めていくストーリーとして、何かを感じてほしいと願う。
 強いて言えば、ウサギの増え方に気づくという、いわばこのフィボナッチ数列の核心部分についての記述が淡々としているために、理屈として理解するのが難しいであろうというところが、不満である。ウサギの絵が背景にあるけれども、そもそもフィボナッチ数列についてある程度知る人でなければ、分かりにくいと思われる。もっとも、子どもに対してこの数列そのものを教えようとするのが目的ではないのであろうから、絵本としての失策には当たらない。関心の深まった人がじっくり考えればよいのである。また、それについて他の本で学べばよいのである。
 地味な本であり、おそらくは大人のほうが敬遠しがちではないかと思われるが、なかなかのブレイブストーリーであると思う。しかも、これは実在の人物なのであるから、数学教育関係などの支持を得て上手に宣伝すれば、世間に広く知れ渡る可能性がもっとあると思われるので、埋もれさせるにはもったいない気がする。
 営業も、大切なのだ。




Takapan
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