本

『フェルマーの最終定理』

ホンとの本

『フェルマーの最終定理』
サイモン・シン
青木薫訳
新潮文庫
\820
2006.6

 小学生にでもその内容は理解可能な、フェルマーの最終定理。17世紀の数学者、いや、彼は今で言う公務員であり、数学の専門家というよりは、数学を趣味にしていた人であったが、そのフェルマーがディオファントスの著作『算術』の余白に書きとめたメモが、その後360年間にわたり、人類を苦悩と困難の中に陥れたのであった。
 ピュタゴラスの定理とも呼ばれる三平方の定理の2乗の部分を、3以上にしたときに成り立たせる整数解はない、というのである。
 だが、数学というものは、厳密な証明を以て成り立つ学問である。反例が見つからないくらいでは正しいと言えるものではなく、それで証明をしようというのであるが、何しろ簡単な数の理論ではあるもので、素人も手を出し、いくら公募しても幼稚な無数の「証明」が押し寄せてくるばかりであった。
 これが、アンドリュー・ワイルズによって、1994年に明らかな解決を得たというのであるから、世界中にそのニュースは飛び交った。その前にも、解けたのか、というニュースが世界を駆けめぐったことはあった。だが、たしかに解けたのは、このワイルズが初である。
 そうした朧気なことは、少しばかり数学やニュースに詳しければ、多くの人が知っていることであったが、その背景を、さまざまな数学的知識と共に紹介するとなると、なかなか誰にもはできない仕事であったことだろう。
 それをこの著者はやり遂げた。本来物理学者だというが、いやだからこそなのかもしれないが、数学も十分理解する頭脳をもち、また一般の人に難解とならぬような形で提供する才能をもっていたがために、こういう優れた科学書が出版されるに至ったのである。そのことは、訳者もしきりに感動している。
 いやはや、表向きのこの定理のことだけではない。そもそも数学における証明とはどういうことか、も含め、フェルマーの生涯、またこの定理の証明にまつわる様々な過程にも悉く筆を休めず、それに関するガロアなどの生涯にまで立ち入って紹介している。もちろん、谷山=志村予想は当然である。しかも、その日本人の扱いにおいて、著者は実に妥当に評価している。普通、このワイルズだけを取り上げるものなのだ。その点も、訳者は感動を隠していない。
 まるでサスペンスを読んだかのような、読後感。ストーリーとしても、申し分なく面白いし、読ませるものがある。数学について、さほどの知識も要しない。必要な点は丁寧に解説がしてある。もう、これは読むしかない。
 人類の知恵とは何であるのか、一つのものに懸ける情熱とはどういうものなのか、この本に欠けているのは、恋愛のテクニックだけであるかもしれない。
 しかもこれは、新潮文庫の100冊の一つである。これで私は、Yonda?のエコバッグをもらえるのである。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります