本

『ヨーロッパとイスラーム』

ホンとの本

『ヨーロッパとイスラーム』
内藤正典
岩波新書905
\735
2004.8

 サブタイトルに「共生は可能か」と掲げられている。この問い自体が、共生を願う心をよく表している。
 いったい、イスラームが何であるのか。日本人は、ほとんどまともに理解していないと言ってよい。だから、簡単に、キリスト教とイスラム教の一神教同志の対立が元凶だなどと思うし、大新聞の社説ですら無責任にそうした論を展開する。
 著者は、それが間違いであることを、懇切丁寧に教えてくれる。イスラム教と対立しているのは、キリスト教ではなく、近現代の世俗化した欧米社会なのだ、と。
 今回は、新書という制約の中で、ドイツ・オランダ・フランスにおける、ムスリムたちの姿を紹介している。それぞれの国の中に、ムスリムたちは大量に入り込んで社会を形成している。それに対して、元々のヨーロッパ人たちはどう取り組み受け容れたか、あるいは反発したか、が丁寧に記述されていく。
 移民として入り込み拡散するイスラームの人々であるが、たしかにそれに対して国粋的反応も起こっている。しかし、キリスト教とむしろ手を組みながら歩むほうが通常の姿であるとして、時代背景から最新の状況まで、著者は惜しみなく綴ってゆく。
 繰り返すが、著者ははっきりと、これは「キリスト教対イスラームの衝突ではない」という意見を繰り返し強調している。端的にそのことを述べているのは、160頁からである。
 日本は、案外移民に寛容にしてきた面もある。しかし、どこかにスケープゴートを用意し、一部の近隣諸国を見下し、非人道的な扱いまでした上で、国粋主義者の高らかに笑い声で幕を閉じるという動きを繰り返してきた観もある。
 ヨーロッパ文化と異なる土壌の日本人たちが、今後日本への移民をどう扱っていくのがよいのか、そんな問題意識からも、この本の簡潔かつ十分にイスラームについての教えを、大切な心に強く押さえ付けてでも、刻んでおかなければならないと思う。




Takapan
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