『英語の発音と綴り』
大名力
中公新書2775
\940+
2023.10.
人目を惹くサブタイトルには、「なぜwalkがウォークで、workがワークなのか」と誘ってくる。確かにそうだ。最初に疑問に思ったかもしれないが、それが当たり前と思うようになってからは、疑問さえ抱かなかった。そうした話題が満載の本である。ついでにいうと、walkのl(エル)は、発音しないのにここにどうして置かれているのか、ということも、不思議と言えば不思議である。
このような「発音と綴りのルール」が、まるごと一冊並んでいる。遊びの部分はない。最初から最後まで、そうである。特別な辞書のような趣である。
本文が始まると、「音を作る仕組み」という章から始まる。口や舌の構造から始まり、母音と子音の違いは何か、というあたりから始まる。また、日本語なら濁点が付くような音の違いというのは、何が違っているのか、といった根本的な問題から入る。これを丁寧に説明するのだから驚きである。素人には分からないような世界が、そこにあった。
著者は、英語から入るよりも、日本語の発音について解説するところから始めた。いきなり英語ではなく、日本人が話している日本語の発音から入り、自分の口の中で実感してみるのが最善であるわけだ。このようにして、しばらく発音とはそもそも何なのか、というところから本書は始まり、ついに英語の音へと進んでゆく。
英語の発音や綴りについては、それが混交した言語だからだ、という程度にしか、私は中学生には語れない。不規則な変化もそうであるし、そもそも綴りを見ても発音が分からないという点では、世界有数の難解な言語である、という認識くらいしかもっていなかった。言えるのは、現象面だけであり、フランス語系だとこういう綴りがあり、ゲルマン系だと、などの説明をちょっとしておけば、中学生へのアドバイスとしては十分なのであった。英語の綴りには、決まったものがないから、その都度頑張って覚えなさい、と。
しかし、本書は根本から違う。そこにはルールがあるのだ。何故そんな綴りになったのか。それは基本を守るためにある形を避けたのだ。どうして子音が二つ続くことがあるのか。音節を閉じるためだ。母音が長い(複母音)からにはそのように音節をつくる必要がある、などという説明があれば、ちゃんと理に適っているということがよく分かる。アクセントも、その綴りを作るのに意味があるだとか、ある綴りがこのように書かれるには訳があるとか、もうただワクワクして読むだけ、ということにもなった。
もちろん、マジックeにも触れるが、それがただアルファベット読みをするのだ、という程度にしか小学生には語れないと思っていたが、そしてそれは外れているわけではないのだが、もっと根底的な規則があったのだ、というところも、さすが専門的な解説だ、と頭を下げるしかない。もちろん、それは単に私が無知だったせいである、とも思う。多くの英語の先生は、こんなこと、常識なのだろうか。いろいろな方に訊いてみたい。
英語はなるべく綴りを3文字以上にしようとする。こうした簡単なルールさえ、はっきりとは認識していなかった。基礎語としては、もちろん前置詞でも代名詞でも、またgoやdoなどの基本的な動詞でも、2文字以下というのはある(そういえば日本語でも変格活用は「くる」と「する」だった)。が、そうでないものは、なんとかして文字をつけて3文字以上にしようとした結果、子音字を重ねたものが現れたり、黙字のeのようなものを付けるということが起こったのだという。マジックeも、そのひとつに過ぎない。
私は英語以前の西欧語にも少し関心があったので、IとJ、UとVとWとの関係などには、基本的な知識はあった。CとGもそうである。本書はそういうところからも、丁寧に説明がなされている。そういうことに気づいていないと、理解できないことが多々あるからだ。Jが本来Iという母音であったことを踏まえないと、母音の法則なども納得できないのである。
たくさんの実例によって解説がなされているのを見ていると、発音が先で綴りが決まっていく、ということが多いことにも気づいた。やはり、言葉は本来そういうもので、書くというのは誰しもができることではなかったことも、影響があるのだろう。
配慮は徹底していて、「'」や「.」の記号の使われ方の歴史や意義にまで触れられる。最後まで退屈することなく、読み終えることができた。
英語には、綴りの体系というものがある。それを、一瞬の油断なく最後まで語りきった本書は、新書というよりは、もう辞典だということでよいのではないかと思う。

た
か
ぱ
ん
ワ
イ
ド