本

『英語の謎』

ホンとの本

『英語の謎』
岸田緑渓・早坂信・奥村直史
角川ソフィア文庫
\720+
2018.1.

 歴史でわかるコトバの疑問。サブタイトルにそのように記されている。英語の歴史を千年くらい遡ると、いま私たちが目にしている英語の不可思議な点への疑問が解決されることがある。そのようなコンセプトの下に作られた、Q&A集である。2002年に教育出版より刊行された『歴史から読み解く英語の謎』に加筆などをした文庫版であるという。千年単位で論ずる故に、20年くらい経っても何も古びはしない内容である。
 そもそも英語は難しい。綴り通りに発音できない。格変化も殆どないし、活用語尾がとれてさっぱりしている反面、規則めいたものが感じられず、学べば学ぶほど、あらゆる表現が不規則という規則をもって迫ってくような気がしてならない。私はそれで高校のときに英語で躓いた。
 中学生に教えるときにも、とにかく暗記しろ、だけであって、どうしてそのようになるか、ということを考えていては進めない、と話すしかない。私は少しばかり関心があったから、いくつか調べたことがあり、またドイツ語やギリシア語なりを少しでもかじっておけば、それなりに説明できることがあるから、多少は背景を知らせることがあるが、そればかりやっても英語が使えるようにはならない。単語を覚え、例文を暗誦するということのほか、あまり頭を使う余裕はないというものであろう。
 さて、本書であるが、先に千年などと言ったが、これも大雑把なのであって、1500年くらい前の母音変異あたりも話題に上るし、フランス語に支配された中世の影響は決定的であった。17正規あたりにかなりいまの英語に移っていく直接の段階があったともとれ、私なども、18世紀の英語は、若干古い綴りがあるとしても、殆ど抵抗なく辞書片手に読むことは可能だ。こうした背景を時折ちらつかせながら、一つひとつはコラム記事のように、小さな疑問を積み重ねていく構成になっている。
 「動詞はなぜ主語の後なのか」、そんな漠然とした疑問もあるが、「be+〜ingでなぜ進行形になるのか」「thanksはなぜ複数形なのか」「timeの発音はなぜティメではないのか」「oftenのtはなぜ発音されないのか」「will notの短縮形はなぜwon'tなのか」など、訊かれたらきっと答えられないような質問が並んでいる。それぞれに、ほぼ明解な解答がなされている。ほぼというのは、確かによく分からないこともあるにはあるからだ。
 まだまだ挙げてみよう。「goの過去は、なせgoedではなくwentなのか」「be動詞はなぜam,is,areと変わるのか」「hardとhardlyはなぜちがうのか」「自分を指すのに、なぜIではなくmeなのか」「be going toはなぜ、つもり・予定なのか」「なぜlittleが、ほとんどないなのか」「of courseの意味はなぜ、もちろんで、発音はオフコースなのか」と全部で79の楽しさがあるのだが、その中には私なりに説明できていたつもりのものもあるにはあったが、英語の歴史からくるとやはり無知をさらけ出すことになってしまっていたように思う。
 その他、番外として、「イギリス英語とアメリカ英語のつづりのちがい」や「英語にはなぜフランス語が多いのか」などが章の合間に置かれているが、最後の最後に、「ケーシー高峰はなぜ高峰なのか」というタイトルのものがあった。いったいこれは何がどう英語なのかということが気がかりになったが、いやはや、実に奥深い英語の歴史が隠されていたものだと驚いた次第である。しかし、一般に知られている限り、この高峰という名は、そのような奥深い意味によりつけられたものではないようだから、偶然のこじつけのようなものであるとしか言えないようだ。しかし、言葉と歴史を学ぶというのは、そのようなことでもあるのだろうなと思えてきて、わくわくした。
 英語に関心のある方にはお薦めするが、英語を教える先生には特に、教えるネタとしても、そして自らの理解のためにも、きっと楽しい本となるはずである。小さな文庫だが、中身が濃い。これで英語が読めるようになるとか、話せるようになるとかいうものではないから、逆に、英語など使わない人が読むにしても、面白いかもしれない。個人的に、私は大好きだ。「そもそも……」などと言い始めるならば、こういう本が一番である。




Takapan
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