本

『身につく英語のためのAtoZ』

ホンとの本

『身につく英語のためのAtoZ』
行方昭夫
岩波ジュニア新書781
\800+
2014.8.

 中高生をターゲットにした新書シリーズとして有名であるが、学習法についてのアドバイスも多い。とくに英語については、多方面から勉強法が提案される。きっといくつもすばらしいものがあるのだろうが、手にとったひとつについて触れてみたい。
 企画がまず面白い。ALOUD...DIARY...jOKE...LISTENING...ZEALといったように、章立てがアルファベット順に並べられている。中には少々苦しい付け方もないわけではないが、こういうことだから、内容的に順番は決まらず、どこからどのようにでも食いついていけばよいことになっている。
 これは、ヘブル語の詩篇でよくあることで、ヘブル語のアルファベット順に始まる文字の言葉で詩を作るという文化があり、それになぞらえているのであろう。しかし英語教育の長い方で、いくらか旧い時代の懐古もないわけではないが、英語学習の最近の傾向と、しかし最近のものが最善かどうかという視点も交えながら、有意義なアドバイスがたくさん並んでいると言える。
 Aは最初に「声に出して読もう」という意味でのALOUDであるが、これは順番としても意味があり、英語の基本だと後にも繰り返される。途中には、コラムとして、つまりひとつの読みものとして楽しめる回もあるし、記憶したいフレーズか並んでいところもある。かと思えはKNOWのところのように、このknowという単語ひとつについての様々な使われ方や意味合いを深く掘り下げてうならせるところもあり、高校生には驚きであろう。
 中学生には、まだ習わない文法事項がたくさんある。読みにくいだろうと思われるが、英語の得意な中学生や、学校の学習に制限されず幅広く英語を楽しみたい人にとってはもってこいである。概して高校レベルであろうとは思われるが、私から見て、どうしてどうして、一般の方で英語に関心がある方、学校で学んだことをもう一度学び直したい意欲のある方、あるいはまた、何かしら社会で英語が必要だとして学んだり、使ったりしてい方々のためにも、たいへん役立つ内容が豊富にあると思う。
 系統だった叙述ではないので、この新書一冊でひとかどの成果が収められるとは期待しないほうがよい。だが、ここからこれを始めよう、というやる気が起こってくる点では申し分ない。
 昔の定番だった『和文英訳の修業』を丸暗記した話などが出てくると、私以上の世代でそうだったんだろうという懐かしさも覚えるが、これに加えて今の機器の利用があると、確かに有用なことは間違いない。学問に王道なしであるから、ただ聞き流せば英語が身につく、などという商売の作戦に加担してはいけない。
 また、英文法の本や辞典について、わずかに挙げているに過ぎないけれども、実に優れたものを紹介して戴いたと私は受け止めた。少し書店やネットで調べて、早速そのうちの一つを購入することにした。また、私も辞典は(全部有効に活用しているとはいえないが)趣味のようにたくさん所有しているが、持っていない辞書の中に、画期的なものがあることを紹介して戴き、予算が許せば次の機会に購入しようと決心した。この本には、そのように世界を広げてくれる魅力がある。そして、これが本にとり大切なことだろうと思う。これ一冊ですべてオーケーだとか、これが英語のすべてだとか、そういう本は眉唾ものである。真に優れた本は、その本から適切に広い世界へ窓が開かれているものである。その一冊ですべてが賄えるという本は、聖書くらいしか思い当たらないのだ。
 その聖書から、ひとつすぐれた章がこの本には用意されていた。HYMNというところで、もちろん賛美歌のことだ。「いつくしみふかき」という、最もよく知られた賛美歌を取り上げて、その歌詞を全部解説している。文法的に説明し、間違いやすい理解をも指摘している。そして日本語の歌詞が原意をなかなかよく伝えていると褒め、英語の理解もさることながら、歌詞の意味を読む者に伝える働きをしている。著者がクリスチャンであるかどうかは寡聞にして存じ上げないのだが、そういう心でないとこれは作れない章ではないかと感じた。この歌詞について、これほどに詳しい解説を、私は他に見たことがない。
 何かしら実用的にとか、仕事のためにとか、英語の外のことに踏み込んで世話をすることがない。それは読者各自の決めることだ。ただ、英語というものを、文化なり背景なり大きく理解して、多少の細かな間違いを気にせず、意味を適切に理解するという視点から使えるようになりたいという人、まさに「身につけたい」と思う人には、すばらしいアドバイスの連続である。もはや高校生に独占させまい。広い世界へ眼を開かせてくれる文章のありかたについても、感謝を申し上げたい次第である。




Takapan
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