本

『読まずにわかる英文法』

ホンとの本

『読まずにわかる英文法』
佐久間治
研究社
\1300+
2014.8.

 笑える。いや、これは真面目な本である。英文法についての、優れた参考書である。
 タイトルに「読まずにわかる」というのは、確かに誇大広告である。文はたくさんあるし、いくらイラストがたくさんあるとは言っても、文による説明を読まずしてはそのイラストの意味も理解しづらい。だからタイトルには無理があるのだが、確かにタイトルには赤丸が先立って「絵解き式」とはっきり書いてある。絵解きでエッセンスが説明される、という意味であろうから、少しこじつけがましいが、「読むだけで理解しろというのではなくて、イラストでのイメージを使ってもっと感覚的に理解することができる」という意味であるのなら、肯定せざるをえない。
 この本のやり方や意義を、否定するつもりは毛頭ない。これは見事なイメージ伝達である。英文法という、言語にまつわる事態を、日本語という言語だけで伝えるということが、どだい無理なのだ。それは中学の最初の英語でも、「on」は「〜の上に」と訳します、などと教えることかできないのと同様である。言語のパラドクスが生じそうな気配である。それよりも、このイラストによる説明、さらに言えばイラストというイメージでの「たとえ」を味わったほうが読者としては得策である。
 とにかく楽しい。そして的確である。このイラスト、実は著者自身の手によるものだという。少しでも、自分のもつイメージを表すためには、イラストレーターに任せることはできなかったのだという。それだけに、このイラストが含めている意味や効果は、本物だと言ってよい。ただし、そうすると、プロのイラストレーターでない著者の絵の表現力がどうであろうか、と心配になる方が゛いらっしゃるかもしれない。ご心配なく。これが実にうまい。味のあるイラストだし、デッサンもしっかりしている。言われなければ、普通にブロのイラストだろうと信じてしまうところである。それで、肝腎な文法のコツのようなものが、よく表されている。しかも、その「たとえ」がやはりよく練られたもので、面白く、含蓄深い。
 そもそも私がこの本をぱらぱらと開いて、これはいいと持ち帰った理由は、ブタのイラストのせいであった。著者もブタが好きなのだろうか、随所にブタが登場する。しかも、それはブタである必然性などどこにもないのだ。talkという名前のブタの尻尾がsになり、三単現を表す、それが次のwalkでは尻尾がくるりんとedになり、過去形になっている。doが登場すると、もはやこのwalkは活用しない。それで、生きたブタではなく、walkという名前の、ブタの蚊取り線香になっている。もはや活用しない原形のままである、ということであるらしい。
 文法の各項目における工夫を凝らしたイラストには脱帽なのだが、とくに私がまた唸ったのは、副詞節の説明のときの、バルーンアートの犬である。一箇所を針で突いても、割れるのはその場所だけであって、全体がダメになることはないたとえである。副詞節は、その節を破壊しても、他の残りの部分は文として生き残る。これが名詞節だとそうはいかない。いわば風船の中に風船があるようなもので、内部の風船、つまり名詞節を割ると、外側も割れてしまう。文自体が成り立たなくなるというのである。この違いは鮮明に伝わってくる。いや、様々な説明が、恋人どうしであったり、戦国武将であったりしながら、心の核にぐいっと入り込んでくるのである。
 もとより、イラストで多くのスペースを潰している。それで伝える内容は、主な概念あるいはイメージのようなものに限られる。細かな文法の解説を期待するのは間違っている。著者自身も、これを入口にしてさらに学習が発展していくことをまえがきで願っている。だが、最初から詳しい文法書を読めば知識が増すというものでもないのだ。この著者の考えのように、適切なイメージを正確に抱くことは、実はたいへん重要である。高校生程度のターゲットを想定していると思うが、大学でもいいし、何かしら英語を必要とし始めた社会人や一般の大人であってもよい。英語ってこういう発想をするんだ、ということがじわじわと伝わってくる。それも確実に、視覚を通して伝わってくる。だからこそ、「読まずにわかる」というのだ、きっと。これで合点した。




Takapan
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