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『お客様を感動させる最高の方法[改訂新版]』

ホンとの本

『お客様を感動させる最高の方法[改訂新版]』
ディズニー・インスティチュート
月沢李歌子訳
日本経済新聞出版社
\1575
2012.5.

 サブタイトルというか、このタイトルの前に付せられている言葉を見出しから省略したら、なんだか眉唾ものの本のように見えてしまうかもしれない。いかにも尤もらしいことが空理空論で述べられて、この通りにすれば絶対成功するなどというふれこみで本を買わせようとする輩がいるし、あるいは偶々自分が成功した例を絶対視して、自分の通りにやってみよと上から目線で教授するタイプのものもある。
 しかしこの本には「ディズニーが教える」とある。そう、ディズニーの世界での接客などについては定評がある。この本では触れられていなかったが、東日本大震災のとき千葉での対応は幾多の証言や映像が残されており、まことに恐れ入る客本意の動きであった。そんなことがよくできますねと問うと、それが日常の仕事ですから当然のことをしたまでだ、という返答がきそうな様子に、また驚く視聴者である。
 この本は、本場アメリカでどのようにしてそういう対応の精神が生まれたのか、そこをディズニーのブレイン部自らが明かしてくれている。ビジネスパーソンには知りたい内容がたくさん詰まっていると言えるかもしれない。ただ、これも一企業の成功例であるし、業務分野が異なれば当然別の方法や考え方に基づかねばならない場合もあるだろう。ビジネスに公式や一般論があるわけではないのだ。
 客に夢を売る仕事だから、というような、いかにもファンタジーもののような説明を、この本は望んでいるのではない。あくまでも実際的に、いざという時も含めて、何をどうすればよいのか、という極めてビジネスライクな話に終始する。それでもなお、それはディズニー内部におけるそれなのであって、やり方を押しつけようとする姿勢は見られないと言ってよいだろう。
 動きに、優先順位をつけているという点が、ひとつの中心をなすものであろうと思われる。業務は、当然要件がかち合うことがある。どちらを優先するのかはケースバイケースだ、と言われればそれまでなのですが、迷わず判断しなければならない時があるだろう。そんな時、迷わずこちらを先にせよ、という序列を明確にしておくというのだ。それは、およその語だけ挙げるが、安全・ゲスト・ショー・効率という順序なのだという。これだけただ告げられても分かりにくいが、本書の具体的な例などを含めた叙述で、どういう基準によりスタッフが動いているのかが見えてくるようになる。なるほど、と思う。
 ウォルト・ディズニーのどこか独断で、初期は運営されていた。しかし、彼のゲスト観というものが、その後のそして今のディズニーにつながっていることも確かである。時代や環境により変化をする部分もあるにはあるわけなのだが、その都度ゲスト中心のあり方が検討され、決定されてきた。その良い伝統は、これからも続くことだろう。まだディズニーの歴史は浅い。これまでと同じように、と妙な伝統意識をもつ必要はない。ともすれば殿様商売であったり、客を小馬鹿にしたりするような企業が多い中で、徹底して客のもてなしということにこだわり、それを優先しているという企業のあり方は、並大抵には実行できないし、すべての業種に通用するとか思えないが、せめてスピリットだけでも、今すぐに自分の心の中に植え付けることはできないだろうか。
 これは、他の評論家などの外部の者が書いた本ではない。まさにディズニーで一定の責任のある人が、内部のあり方を綴ったものである。そこにまた、意味があると思われる。中途半端に真似するのもまずいだろうが、できることからまず倣ってみるというのも手である。




Takapan
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