本

『キリスト教は役に立つか』

ホンとの本

『キリスト教は役に立つか』
来住英俊
新潮選書
\1300+
2017.4.

 書き下ろしの選書。新潮社からこれだけのキリスト教一本のものが出されるというのは有難い。カトリック司祭の文章であるが、たいへん読みやすい。嫌味もなく、またこれはこの本のモットーなのだそうだが、キリスト教用語なるものをできるだけ使わず、全くキリスト教の外部にいるような人々に届く言葉が選ばれ、連ねられている。押しつける姿勢もなく、また話の内容も面白い。これまであまりなかったようなタイプではないかと思った。それで、けっこう読まれているという話も聞いたが、そうだろうと思う。
 帯には、日本人にもわかる「幸福の方程式」、と記されている。出版社側の文句なのだろうが、なるほどうまく付けられている。大澤真幸氏の推薦もなかなかよい。
 実は最初、タイトルを見たときに、私は手を伸ばすのを控えていた。「役に立つか」という問いかけに馴染まなかったのだ。プラグマティズムじゃあるまいし、キリスト教が役に立つかどうかという点を焦点にして、何が語られているのだろうか、と疑う気持ちが強かったのである。しかし書店で手に取ったぱらぱらと開いたとき、その印象はなくなった。これはよいことが書いてあるぞ、と気づかされたのである。
 生活の言葉、日本人ならば誰にでも通じる言葉で、しっかりと福音が語られている。というより、途中で明らかにしているが、私たちがイエスと出会うという道筋が明確に示され、そこへ誘う営みとして、この本自体が成り立っていることを感じたのだ。ひと項目4頁という読みやすさの中で、50の項目が流れていく。イエスは、最初は誰だか知れない存在であるが、まず知識として立ち現れてくる。それが、自分の生活の圏域に入ってくるような存在になっていくという過程が説かれ、ついにクリスチャンというのは、そのイエスの中にいる、あるいは自分の中にイエスがいる、というところにまで達した者である、という見解である。
 自身の証詞や、身近な人との会話、出会った人の逸話などもふんだんにあり、読み手を厭きさせない。ちょっと知りたいような、カトリック教会の内実なども折込ながら、本は進展する。200頁を超える本だが、読み疲れることはなく、むしろどんどんと読み進んでいけるようなタイプであるだろうと思う。それでいて、福音にいてぶれないのには、思わず拍手を送りたくなった。
 確かに、知的な著者である。一流企業に就職し、社会人生活をする中で、30歳のときに洗礼を受けている。そして38歳にて司祭叙階となったというのであるから、逆に世間の人間の考え方や生活などを味わったという点で、信頼を置きやすいのではないかとも思われる。社会経験のない牧師が、甘い考えで説教をしている場合があるが、人の痛みや辛さを通ってきた人の言葉は、やはり厚みが違う。
 果たして、この本のタイトルが最善のタイトルであるかどうか、それは、読み終わったいまも私は分からない。ただ、イエスとの出会いの道をガイドしたことについては、唸らざるをえない。また、後半でとくに、結婚の大切さを訴えたかった、と記しているが、この点もユニークである。ご自身結婚をしていない人がそれを言うというのには勇気がいるものであろうが、私はその試みは成功していると思う。パートナーの大切さ、それは、結婚という形がすべてではないということも承知の上である。しかし、多くの人にとり、結婚というものが遠ざけられているのは、必ずしも相手がいないとか、経済的理由によるとかいうものではなく、向き合うべき相手に対してある種の臆病さや、忌避感があるのではないかと私は感じているのだが、そこまで言わないまでも、著者は人と向き合うこと、ひとりでいるのはよくないという神の言葉を真摯に受け止めての考察を、読者によく伝わるように訴えていると思う。
 どなたにもお薦めできる本という意味では、本書は確かである。しかしとくに、結婚をこれから考えたいという方には、ぜひとも手にとって戴きたいものだと願うものである




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります