『中高生のための 小説のつくりかた』
田中哲弥監修
メイツ出版
\1630+
2024.5.
小説の書き方など、十人十色である。そのことは、本書にも書かれてある。それでいながら、書き方を指南しようとするのだから、あまり堅いことを言わずに楽しめばよいだろうか。表紙には、「創作に役立つ実践知識とヒント」という文字が目立つように記されている。そして表紙下部には「ココロに響く物語を思い通りに描こう」という手書き風な文字もある。「書こう」ではなく「描こう」となっていることはどういう意味か、よく分からない。さらに、「すぐに使える 具体的なアドバイスを凝縮」とも書いてある。これは誘い水なのだろうか。先に挙げたように、小説の書き方のルールなどない、と言い、作者がこれは小説だと主張すればそれは小説だ、などということが、「はじめに」にいきなり宣言されているのだ。表紙の文句が、「はじめに」でいきなり破壊されてしまうのである。これはびっくりする。読者はついていけるだろうか。
この後細かな指導が、一冊延々と続く。それはそれは具体的に、アドバイスが連続するのは本当である。読んでみて、こうやって作家は考えているのか、といった驚きが、中高生に沸き起こることは十分に期待してよいだろうと思う。十人十色でよい、という建前を見て見ぬ振りをすれば、これはかなりお世話好きな指導者による、小説入門である。
そのテクニックをここでばらすわけにはゆかないだろう。
基本的に、見開き2頁で一つの項目である。小説を書くなど経験がない中高生、だが小説を読んだことがあって、自分で書いてみたいと思う気持ちがある子には、なかなかの刺激であるだろう。そもそも読むのが好きだからこそ、書いてみたいと思う気持ちも起こるのだろう。でも書き方なんか分からないし、という辺りの子には、かなりいい内容であると思う。
非常に具体的に、キャラクターの設定やプロットの立て方など、案内してくれる。著者は「作家養成スクール心斎橋大学講師」だというので、慣れているのだろうと思う。そこで大人相手にはこのような例を挙げないだろうという内容を、ここでは爆発させているように見える。ラノベ、などと一括りで言っては失礼に当たるだろうとは思うが、多分にその傾向の「小説」が明らかにモデルなのである。本当に本書の通りに従って書いたら、殆ど似たり寄ったりの、流行しているタイプの物語が居並ぶのではないか、と思われるほどの、懇切丁寧な指南なのである。
確かによいことは書いてある。だから、いろいろ書いてみて成長してゆく人ならば、その都度自分の誤りに気づいて、修正もしていくことだろう。だが、これを一度読んですらすらとマスターするというのは無理だ。これらを経験してきた先生であれば、言っていることの適切さは理解するが、未経験の者がこれらを一読して、理解して実行するという逆の過程は、実際にはできないものである。小学生たちに、中高一貫校の入試のための作文指導をしているが、最初に作文を書くときの注意のまとめを配っている。これを一度学んで、それらを全部実行できるか、というと、とんでもないのである。何度注意しても、同じことをやらかしてしまう。そんなものだ。まして、小説を書くとなるとそれなりに愛着が湧く。自分のはなかなかよく書けているように錯覚するのは必定である。
こうした実情を理解し把握して取り組まねば、とうてい書けるものではないだろう。もし書ける人がいたら、こうした本とは無関係に、そもそも書く力があった、ということであるはずだ。
しかし本書は、最後に、新人賞に応募しようとか、文学賞にはそれぞれジャンルめいたものがあるから、受賞作をちょっと読んでみたらよいとか、かなりその気にさせるアドバイスの場所を設けている。それはない、と言いたい。本書の対象は、もっとド素人である。語彙もままならぬ中高生である。もちろん人生経験もないに等しい。自分の中の創作意欲に目覚めることは悪くはないが、まずはそれを形にしてみる、という一歩を手助けするので精一杯のはずだ。そのために、必要な知識や事情をレクチャーしよう、というのなら分かるし、本書はアドバイスとして間違ったことを書き並べている様子はない。それぞれご尤もなことなのだ。
だが、それはひとつの自己実現への過程であるだろうし、自己表現を体験してみよう、というようなものであるに違いない。繰り返すが、中には文章に関して天才的な若い子もいることは知っている。そうした子にとって、注意点をまとめている本書は、即座に役立つものであるかもしれない。だが、殆どすべての子にとっては、何か自分の証しを立てたい、という程度の発端であるだろう。そこに、文学賞をちらつかせるようなことは、要らない餌であるのではないか。小学生に野球のキャッチボールやルールを教える本を書いて、さあ君もメジャーリーガーになろう、と誘うようなものではないだろうか。
本書は巧妙なところがある。タイトルが、「小説の書き方」ではなく「小説のつくりかた」なのである。どう組み立てるのか、その経緯が説明されている。しかし「小説の書き方」となると、人間を書くとか、社会の矛盾を書くとか、レベルの高い、深い問題へとつながってゆくことになる。本書はあくまでも「つくりかた」なのだ。子ども相手に「カレーのつくりかた」の手順が書いてあるようなものなのである。決してカレーに深みを与えるような技が書かれているわけではない。一日置くとよいとか、スパイスの意味とか、そういうことを説明するものではない。とりあえず「つくりかた」を教えた、ということでよいのではないだろうか。
こうした使い方に注意すれば、本書はなかなか詳しいアドバイスに満ちている。自分のアイディアを形にしてみよう、というお誘いであるならば、そこから作家への道が実は始まっていた、というような人が、将来現れないとも限らない。が、もし他のニーズがあるとすれば、やっぱりせいぜい「ごっこ」のレベルに過ぎない。その意味で、「まえがき」もそうだが、少しばかりコンセプトの不統一が感じられた点は、幾らか残念な気がする。繰り返すが、アドバイスそのものは悪くないのだ。

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