本

『キリスト教思想の形成者たち』

ホンとの本

『キリスト教思想の形成者たち』
ハンス・キュンク
片山寛訳
新教出版社
\2900+
2014.10.

 非常に不純な動機で購入した。なにぶん、安かったのだ。キュンクの新しい本が出ていたが、なかなか値が張る。その同じ名前の人の、比較的新しいものを見つけたのは、非常にポピュラーなリサイクルブックの店だった。これはどう考えても、この手の本の価値が分かっていない人がつけた値段だ。売れそうにないハードカバーの本は、安い値をつけて売り払ったほうが、棚も空けられてよい、とでも考えたのか、いまどきこれではバスにも乗れまいというくらいの金額のシールが貼られ直していた。もちろん書き込みや汚れもない、新品と言われても構わない程度の本である。
 さて、内容のご紹介をしなければなるまい。サブタイトルには「パウロからカール・バルトまで」とある。これは邦訳者による看板だろうと思われるが、実は本書には七人の神学が評されているだけ、と言った方がいい。表紙には英語で並べられているが、パウロ、オリゲネス、アウグスティヌス、トマス・アクィナス、マルチン・ルター、フリードリヒ・シュライエルマッハー、カール・バルトという名がそこにある。逆に言えば、その他の人物は一切捨象されているわけだ。
 これは思い切った構成である。ついつい、いろいろ触れたくなる。しかし、禁欲的にか、そしてまた7という数にこだわったのか、これだけのメンバーに限って触れてゆくことにした。これについては、訳者も挙げているように、他の選択もあったはずだ。訳者だったら、カルヴァンやブルトマンをこそ入れたい、などとも述べていた。
 が、そうした選択は、キュンクには無用である。他の人を入れたければ、その人が書けばいい。キュンクは、神学者をすべて挙げようとしているのではないし、これで神学者のランク付けをしているわけではない。神学の歴史、キリスト教思想の筋道を通すために、最も辿りやすい道を辿ったのである。それぞれ、一人の眼差しを通して貫かれ描かれるが、読むだけで勉強になる。特別に英雄視したり、逆に見下したり、そういうことはない。ただ、無難に述べたい人が見ないような角度から見る眼差しがそこにあるのと、それを告げる鋭い言葉があることが、読者をハッとさせることは確かである。
 キュンクという人は、カトリックの司祭である。そして、カトリックの中でも曰く付きの人物とされる。教会から、キュンクの書が禁書扱いされたほどである。それは、カトリックを批判したためである。教会組織の統一を標榜する教会としては、そこに批判の刃を、しかも司祭という要人が向けてはならないわけであるし、それに対してはケジメをつけなければならないのであろう。大学で教授する資格を停止させるようなことまで、教会はしたのである。
 最大の問題は、教皇の無謬性を否定したことであったという。それでも、大学に解雇されることなく、研究所の所長として大学に残ることとなった。そして、言論活動が続けられたのである。
 本書にしても、特にカトリックを攻撃している様子は感じられない。要するに教会を攻撃したり、教会と闘ったりしようという目的があるのではないのであろう。ただ神の光の下で、真実に目を開こうとするだけであるなら、それは学者としては当然の義務であるとも言える。それが一部の人々の信仰を壊しかねないという場合もあるだろうが、キュンクの場合、聖書そのものに楯突いたわけではない。あくまでも教会の教義に対して、聖書を軸として筋を通しただけであるように見える。聖書を否定したのではないだろう。
 七人の思想を辿り終えて、著者は最後に「エピローグ」を載せている。それは、簡潔にまとめるようなものではない。その代わり、「時代にかなった神学への指針」を提示している。そう、神学は時代と共に変化する。その時代に合った形、あるいは時代が求める形で、聖書は読まれ、掲げられる。聖書は無限の思想を含みうるものであろう。私たちはその時々に応じて、少しずつ角を削ぎ落とすように、神の知恵の一部を垣間見るだけであるのだろう。少なくとも、聖書の記述を否むのでなければ、私たちはそこから命を注がれる道を拓いておくことが可能なのである。
 その指針をすべてここで挙げることはできないが、最初に並べられている部分で強調されている幾つかの言葉だけをピックアップしてみようかと思う。それらは、「誠実な神学」「自由な神学」「批判的な神学」「エキュメニカルな神学」といった口調である。その他、現代神学のための「十戒」が提言されるなど、ユニークな発案がそこに見られる。そして私たちが受け止めねばならないことは、著者が間違いなく、そこに「希望」を抱いている、ということである。締め括りには、こう掲げられている。「後から来る人々が生きんことを!」




Takapan
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