本

『人間イエスを科学する』

ホンとの本

『人間イエスを科学する』
アウグスト・クリ
エハン・デラヴィ,愛知ソニア訳
サンマーク出版社
\1680
2006.5

 キリストの心理分析というサブタイトルであるが、原語のIntelligenceがそれでよかったのかどうかは、疑問が残る。出版社への偏見を助長することはしたくないが、私個人は、ハウツー的なイメージをもっていた。調べてみると、心理的な啓発を得意としているかのようにも見えた。その中で、この本が訳されたというのは、ビジネス者への販売も狙っているような紹介がしてあるから、もしかすると案外成功しているのかもしれない。
 南米の無神論者と自称する精神科医による著作である。書店において、例の「ダヴィンチコード」関係のコーナーに積まれていたので、妙な本かと思ったら、どうしてどうして、これが聖書をよく紹介する本となっている。
 キリストの実在すら疑う声があるが、この精神科医による分析は、聖書のこの記録は、実在の人物に違いないと断言する。そして、随所に、精神科の治療以上のものが現れており、驚嘆に値するというのだ。あらゆる面で、これほどの「癒し」を成し遂げるということは、人間に不可能であるというふうにまで語っている。
 私は信ずる、私はイエスを愛する。そのように信者が語る本がある。それもすばらしい証詞なのであるが、傍観者からすれば、勝手に信じていればいい、とも無視されるかもしれない。しかし、この著者は、読者にまざまざと見せつける。とにかく、イエスはこんなにすばらしいのだ、あなたもこのようにすれば成功する、と。すると、よきお手本として、誰もが興味をもつような形となる。
 南米では大学などで推薦図書とされ、ストレスや心労に苦しむ人も、この本を読んで元気になっていくという。それも分かるような気がする。というのも、やはりそこには聖書の文化がはたらいているせいもあるだろう。この本では、聖書が逐一引用されて聖書の解説をしているわけではない。聖書については一通り知っているという文化圏の人々を想定して書いてある。日本で、いちいち仏教とは何かを説明しなくても本が読まれるのと似ている。
 とはいえ、聖書の知識がなくとも、人生の知恵として読むことは不可能ではない。むしろ、このような本に出会って、イエスに魅力を感じて、聖書を開いたり教会を訪れたりする人が現れるのではないか、とも思われる。
 ただ「信じなさい」という立場からばかり聖書をお読みのクリスチャンも、このような理路整然としたキリストについての研究に触れてみるとよいと思う。改めてイエスがどんなにすばらしいお方であるかを知ることになるだろう。少なくともこれは、表題のけばけばしさにとらわれる必要のない一冊であるといえる。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります