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『『キリスト者の自由』を読む』

ホンとの本

『『キリスト者の自由』を読む』
ルター研究所編著
リトン
\1000+
2016.10.

 2017年、ルターの宗教改革の発端の事件から500年を数える。これを記念する動きは、プロテスタントのみならず、カトリックのほうでも動きがある。というのは、特にルター派とカトリックとの間で、事前にずっと動きがあり、いわゆる「和解」へ向けての話し合いが続いているからだ。実際、その宣言がなされ、合同礼拝が行われることも決まっている。
 ルター派のほうでは、これまたその先頭に立つルターの名を掲げ、ルター神学の意義を表に出すことをずっと計画していた。他の教派からすれば、ルター再考ということにもなるだろう。あまりに大々的なことはしていないかもしれないが、いくつかの出版を通じて、広く世の中に問いかけるルターものを企画していた。今回その中でも大いに読まれてほしいという願いをこめて、おそらくこれが編集されたものと思われる。ルターの思想の中でも、現代的意味をもつものとして最有力なものが、この「自由」論であるとするのだ。
 そういうわけで、『キリスト者の自由』をここに解説するという本ができた。比較的薄い本であり、活字もやや大きい。読みやすいし、量的にも多からず少なからず、適切な本として仕上がった印象がある。
 ただ、それだけに、内容もまあ入門程度のものであるのかしら、という気が、最初はしていた。それで、購入に手を出すのをしばらく控えていたのである。だが、ある機会があって入手してみたところ、その印象が違ったのである。確かに、入門的であるには違いない。しかし、このシンプルな構成の中には少しも遊びがなく、的確にずばずばと要点が刻みこまれている。それでいて現代世界に切り込むための提案が随所になされており、これはすばらしい内容の本になったものだ、と驚いたのである。
 まず、議論についていくために必要な、ルターの原著からの抜粋が掲げられる。これを読んでおくことで、以下の議論がほんとうに読みやすくなるのだ。
 原著を読む人にはどういうところに注目してほしいか、考えてほしいか、そういう前段階を踏んで、次はテーマ毎に論じられていく。自由・律法と福音・信仰義認・全信徒祭司性・信仰と行為・愛の奉仕、という具合である。スタンスとしては、ルターの著作は、自由と奉仕という二本柱があるという点をはっきりさせ、しかし自由が原理となっているために、タイトルには自由だけがあってもそれでよいのだ、という解説である。ハイデッガーの『存在と時間』のように、両方を出してもよかったかもしれない、と思いつつも、それほどに前者の自由の重視をしたところが、現代世界にも強く働きかける意義を有している、というのであり、このことが、巻末の座談会に活かされている。私たちのいまにおける、このキリスト者の自由の問題は、確かにもっともっと考えられて然るべきものであろう。
 この本は、読書会のテキストとしても使われてほしいし、また、ルターの他の著作のための読書会であっても、横に置いておきたいものとして作られているのだという。実際に読んでみて、確かにその通りだと思った。宗教改革500年を迎えた私たちキリスト者の誰もが、この本に触れたいと強く思った。それだけの価値のあるものとなっている。どうしても考えていきたいことについて、土台を置いてくれると思った。教会での修養会や学び会に、全員でこれを購入して、話し合う場を用いる、あるいは継続的に読み続けていくということを真剣に行うことで、教会も、日本のキリスト教界も、きっと変わると私は思う。問題は、それをやる気があるかどうか、というところだ。やれば変わる、と私は確信している。




Takapan
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