本

『カトリック入門』

ホンとの本

『カトリック入門』
稲垣良典
ちくま新書1215
\1000+
2016.10.

 著名な著者である。トマス・アクィナスの権威である。生涯トマスの著作のために仕え、努力を続けた。佐賀県出身ということもあり、九州で活躍しておられるということで、私からすれば身近な存在のようにさえ感じていた。神学大全についての解説本は手強かったが、トマスの構築物のようにがっしりとしたものを感じた。
 このたび、新書という形で、カトリック信仰を前面に押し出した本を世に問うた。より人々の手に触れやすい形で、カトリシズムの宣教をするような形になっている。
 サブタイトルに「日本文化からのアプローチ」とあり、その問いかけから本書を始め、その解決を以て本書を終える。きっちりしている。
 著者にとり、キリスト教=カトリシズムである。宗教改革ですら、教会改革でしかない。これはもう、バリバリのカトリックの軍隊のようである。
 ソフトなカトリックの方もいる。学を論ずるにおいても、できるだけ和らごうとしているタイプの話の仕方をする人がいる。バチカンでの方針変更の波はいまも有効であり、ガチガチのカトリック一点張りという人は少なくなったようにも見える。ただ、この著者は本物のカトリックである。頑として動かない、ここにしか真理がないという形での教理とその解釈を押し出す神学者となっている。
 岩下壮一というカトリックの方がそうだった。徹底的にプロテスタントを叩き、カトリックにしか真理がない、と言い切った。本書ではどうか。そもそもプロテスタントを相手にすらしないという態度である。限られた新書という場であるから、それを論じている暇さえもったいないと考えているかのように、プロテスタントの教理になど見向きもしない。いや、時折鋭利な刃が向けられるのは感じる。聖書のみなどと言うが、その聖書をいまの形に定めたのは誰なのか、とぐいぐい迫る勢いには、太刀打ちできない迫力を感じた。
 とくに、これは印象でしかないのだが、マリアについての叙述には、たいそうなこだわりというか、情熱あふれる魂が激しくぶつけられていたように見えた。しかも、ここは神学者である。相手の出方というものを予想し、自分の論点の弱点めいたものを先に掲げ、それを十分擁護した上で、あとは一旦擁護された論はもう真理であるから、それを全面に押し出して反撃する。もう誰も止めることができない力強い論法が休みなく続く。
 そういうわけで、こちらに息をするのも許さないような勢いで議論がぶつけられてくるので、心臓に弱い方は読み方を工夫しておくのがよいと思う。
 日本文化との問題は、最初には掲げられるが、その後は鳴りを潜め、カトリック教理の正当性を貫き、またそれに抵抗するプロテスタントなどもう見向きもしないままに突っ走る。その力強さというのは、カトリックの一つの魅力であるような気がする。教会の伝統という基盤があるから、びくともしないのだ。妙に気を遣わないで押し通すほうが、たしかに信頼を増すということがある。だって真理なんだから、とつねに構えているような、自信満々の論理が終始この本を貫いている。新書とは言いながら300頁を数える分厚い構成となっている。それもまた、カトリックという構築物の重々しさを伝えているのだろうか。
 プロテスタントの私としても、勉強になった。教理としては違う見方もあるのではないか、とも思ったが、そういう反論も想定した中で展開していく論に、とやかく口を挟むことさえ許されないようであった。見事というほかない。果たしてこれで「入門」なのだろうか、とも訝しく思ってしまうが、誰でもまだカトリックに入っていない者がその門を潜っていくのであるならば、たしかに「入門」なのだろう。議論の仕方についても、読み応え十分の新書であった。




Takapan
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