本

『教会アーカイブズ入門』

ホンとの本

『教会アーカイブズ入門』
東京基督教大学教会アーカイブズ研究会編
いのちのことば社
\1365
2010.6.

 教会にはたくさんの記録がある。
 歴史的な遺産ともなれば、時折ミッション系大学の博物館などが、そうした教会関係の資料を展示することがある。あるいは何々展といって、社会的に広く公開する催しとしても通用するものがある。
 しかし、まさか私たちの地味な一教会が、そういう資料を有していることはないだろう。少し前に教会にいた人の洗礼の記録も、あやふやなものになってしまっているかもしれないし、どこかに記録が保管してあったとしても、牧師の部屋の最も使わない棚の奥のほうに眠っていたとか、あるいは必要があって探し出したら押入の奥で黴だらけであったとか、そんな話がそこかしこにありそうな気もする。
 心配すると、「教会の記録は、そもそも天にはちゃんと書き記されていますよ。いのちの書に」などと、信仰心たっぷりに説明する人がいるかもしれない。今の教会と、これからの教会こそ大事だから、まあ古くなった資料は廃棄するしかない、という考え方をする人も、いるかもしれない。
 どうかすると、教会史を何周年かの記念に編集しましょうと軽々しく言い始めることがあり、そうなってから資料をさあ探そうと一部の役員が困り果てることがある。結局、念入りに資料を見つけ出すようなことはできずに、かつてどこかで記録された年表を見つけるとそれをそのまま採用し、分かるかぎり続きを記すというようなことになる。写真も、どこかから見つけ出すにしても、ある特定の時期の写真ばかりがやけにたくさん見つかることになり、後は最近の写真でごまかす、というような事態にもなる。
 これは、空想の話ではない。私の、以前の教会で実際にあったことなのだ。まことに、思いつきだけで恰好を取り繕おうとする指導者の見栄だけから、私と関係者が振り回された形となった。
 私は、資料整理学などを学んだこともなかった。しかし内容的にその程度のものだったので、通常の雑誌などの編集方法でカバーできたので助かった。その私が、本格的な資料の整理に目を開かれたのがこの本である。「入門」でしかないのだが、素人には十分すぎる刺激があった。そもそも資料とは何か、どのように扱わなければならないか、それがきっぱりと書かれていた。しかも、複数の筆者により同じように書かれているから、説得力も強い。ああ、今まで神のことを知りませんでした、と涙ながらに告白するヨブのように、私は悔い改めなければならないのであった。
 教会の資料の扱いについて専門的なことを教えてくれる本は、実に少ない。高価な本がもう一つあるくらいで、実のところこうした分野については全くの手つかずであったというのが正直なところであろう。教会そのものが、先に私が若干揶揄したように、古来の資料をきちんと遺すということについて、あまりに無頓着であったのだ。
 だが、それは間違いである。そのことが、この本によりはっきりと分かった。
 歴史の中で、教会は、必死の思いで、信仰を記録し、保存し、後世に伝えようと命を賭けてきたのだった。少なくともそれが信仰の歴史であったし、その恩恵を私たちはめいっぱい受けている。私たちが救われたのも、そのようにして先輩方が、聖書をまさに懸命に、迫害の中でも焚書の中でも守り、保存し、大切に扱ってきたからなのであった。命がけのこれらの行いを蔑ろにするかのように、私たちが私たちの教会の記録を蔑ろにしてよいはずがないではないか。
 こういうわけで、この本には、現代の状況における、資料の取り扱い方の注意や心がけること、そして実際の方法が事細かに掲載されている。整理カードの作り方も具体例を挙げて実に親切である。それで私は、この本はすべての教会に必須ではないかと思うようになった。そして私の今いる教会でも、これは実行しなければならないということを、ひしひしと感じるのであった。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります