本

『聖書が語る 生きる勇気のことば』

ホンとの本

『聖書が語る 生きる勇気のことば』
濱尾文郎
角川文庫
\499
2008.11

 1996年に出版されていた本が、文庫本として生まれかわっていた。ワンコインで手に入れやすくなった。
 思いつきで霊だなどと言って根拠づけた気になり、怪しげな前世などを言い当てることで膨大な利益を貪っている者たちが顔を大きくしている時代、ともすればこの本も、そうした仲間だと思われてしまわないかと懸念する。
 カトリックの枢機卿というから、いわば教皇の次の地位である。2007年秋に召されたことでニュースとしても報道されていた。そういう地位にいる立場もあるし、そもそもアジアにおける問題に取り組んでいた方でもあったので、信仰や聖書はもちろん基本でありそれがすべてでもあるわけだが、同時に政治的な関心も当然あるし、政治的なタクトを振らなければならない日々でもあった。
 この本は、様々な困難な場合を想定し、それに応じた聖書のまとまりを挙げ、問題解決のためにアドバイスするという形式を貫いている。そこには、政治的な見方も多々見られる。個人としての道徳めいた記述を越えて必ず、国や団体としてなすべきことへと展開していくのである。
 やはりこの辺り、カトリックの考えでもあるのだろうと思う。また、それはそれで尊重すべきなのだろうと思う。聖書に根ざしつつ政治的な配慮も怠らないのは、天国の鍵を預かった人々としては、当然のなすべき業なのであろう。
 だから、聖書の原理を掲げながら、積極的な行為によって救いに入れられるという発想にこの本の中で出会うことがあり、少々私は戸惑うのは事実である。その他、聖書の解釈や罪の定義についてなど、私と意見が合わないところもある。しかしまた、通して読んでいけば深く教えられることがあるのも確かである。聖書の解釈はともかくとして、分かりやすい例話により、生活に活かす聖書の言葉の用い方については、よいメッセージがたくさんあるように思われた。
 言葉は概して易しい。誰が聞いても分かりやすい言葉であると思う。聖書の引用も効果的であり、本のタイトルも、地味ではあるが、中心点をちゃんと知らせていると言えるだろう。
 そういうわけで、食い物にしようと企むようなスピリチュアルな面々とその本とに比べると、もしかすると聖書文化に造詣がなければ、簡単には読めないかもしれない。字面は読めても、そこに深く含まれていることが分からないだろう、ということだ。問題点は様々でも、一貫した聖書理解があるわけだから、読みながら私たちが矛盾に首を捻るようなことは殆どないものと思われる。
 聖霊は、新しいことを知らせるのではなくて、これまで父や御子が伝えたことのあるものを思い起こさせ、あるいは今の自分に浸透させるような働きをもつ神の姿である。このように、細かなところに何かを感じたら、その大きな意味を考えてみるとよいだろうと思う。こうした視点を、この本は提供してくれている。生きる勇気が湧いてくるというものだ。




Takapan
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