本

『神の国の証人 ブルームハルト父子』

ホンとの本

『神の国の証人 ブルームハルト父子』
新教出版社
井上良雄著
\4500+
1982.3.

 入手したのは2001年の第9刷である。長年読まれているものらしい。2025年に復刊されたニュースを聞いて、旧い版を探してみた。
 副題ではあるが、殆ど題名のように「待ちつつ急ぎつつ」という言葉が掲げてある。ブルームハルト父子のモットーのような言葉であろうか。
 著者の井上良雄氏は、神学者でもあるが、文芸評論家と呼んだ方が一般にはよく知られているかもしれない。洗礼を受けたのも、40歳の少し手前くらいのことである。しかし、キリスト教世界に対する貢献は大きく評価されており、その語学の力を活かして、多くの翻訳を成し遂げている。特にカール・バルトの著作の多くを訳し、いまなおその訳は活用されている。
 従って、ブルームハルト父子についての一種の評伝をここに著すとなると、途中からカール・バルトの視点を交えて記すようになってくる。特に子のブルームハルトとは、直接の交わりもあり、対比的に見ると、それぞれの考え方が際立つことになる。というのも、実は芯でつながっているという部分があるから、だからまた、どこがずれていたのか、それが分かりやすく見えてくるからである。
 基本的に、その生い立ちから生涯を辿ると言ってよいのだが、父のヨハン・クリストフは、ごく普通の牧師職を営む人だと思われていたものの、悪霊を追い出すということで、えらく知られるようになってしまった。しかし本書を読む限り、そこにエクソシスト張りの食い込んだ動きは感じられない。そして副題にあるように、神の国を待つという信仰の態度をベースにしながらも、そこへと急ぎつつ福音を語り、人を癒やすということで、周囲に大きな影響を与えたということになる。
 子のクリストフ・フリードリッヒは、そうした父と比較される圧力を感じながら同じ牧師職を継ぐことになるが、特に後に、社会運動へ力を注ぐことになる。一時は、もう福音を語るような者ではなく、ひたすら社会運動のリーダーになってしまったのではないか、と周囲から非難を浴びる。実際、州議会議員としても働くことになるのだ。
 その神の国への期待は、益々スピードを増す。しかし、聖書をこの世界での実践的なテキストとして扱うその姿勢は、多くの神学者や信仰者に影響を与えてゆく。当時の人々が、当時の信仰というものを基準にして、彼らを如何様に責めようとも、後の私たちから見れば、その働きについて、敬意を表することはあれど、かつてのような非難を浴びせることはできないであろう。
 バルトの著書を多く翻訳した著者にしてみれば、バルトの神学をつくった重要な存在として、この父子の評価をしてゆくことは必然であったかもしれない。冒頭の「序に代えて」から、いきなりカール・バルトの講義からである。バルトの著作について知り尽くした著者であるからこそ、ブルームハルト父子との関わりをその著作のあちこちに見出すことができるのであろう。そして、この父子から、自分は光を当ててもらった、と述懐している。この「序に代えて」は、18頁もある。あるいはここだけを見ても、本書の姿勢というものがはっきりと分かってくるとも言えるだろう。
 力作である。ここには、著者自身の姿が映し出されているかというと、それは私には読み込めない。だが、バルトの眼差しを含みつつ、ドイツの神学に大きな力を及ぼした二人の父子の生涯とその歩みが、丁寧に書きこまれた、470頁に至る金字塔であると言えるだろう。その魅力を、私ごときがとやかく言うべきではない。機会があれば触れるだけの価値があると信じる。




Takapan
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