本

『図説・聖書人物記』

ホンとの本

『図説・聖書人物記』
R.P.ネッテルホルスト
山崎正浩訳
創元社
\3780
2009.9

 大判の本で、ビジュアルな要素に満ちている。「絵画と家系図で描く100人の物語」というサブタイトルが付いている。
 よく、日本史を人物に焦点を当てて100人選んで説明する、というような企画がある。聖書についても、それが全体として神の歴史であると共に、見える形では人間の歴史であるからには、それを人物を通して描き示すということは可能なはずである。しかもこれは系図から、様々な人間関係の中で紹介することに成功している。
 著者の意見というものが反映されない紹介というものはないと思われるが、本全般としては、極力不要な評価は避けるようにして、できるだけ聖書に忠実に、その人物が何者であり何をしたのかということを適切に伝えようとしているように見える。従って、聖書の中では分散してどうまとめてよいか分からないような人物について、たとえば大預言者などは特にそうであろうが、その生涯や意味を簡潔にまとめてあると言うことができるために、聖書の学びとしても実に助かる資料となっている。教会学校の教師や、おそらくは牧師当人でさえ、これほどに整理してあるものがあれば、話がしやすいものであろうと思われる。
 しかも、たんに聖書の内部に留まらず、たとえばノアの紹介においては、バビロニアに伝わる洪水物語を紹介して、そうした伝説の中におけるノアの物語の意味が語られるなど、非常に実際的な知識が語られるのである。ロトの妻の名は伝説では「エディト」だと伝えられる、というような興味深い知識も付け加えられる。後世守護聖人となった使徒については、その後の時代におけるエピソードも触れられているから、至れり尽くせりである。その人物の活躍した町の歴史や他国との関係などの背景もまた、必要に応じて多岐にわたり紹介されており、これだけの厚みのある高価な本としての意味を十分に成していると言えるだろう。
 プロテスタント教会では開かれないが、外典あるいは続編だと新共同訳で付け加えられている書物についても、古来芸術家の想像力を刺激し、また教訓としてきた歴史があるので、少し触れられているのも面白い。また、そこには、実に新約につながっていく糸口が隠れているとも言われるのである。イエスの言葉のこれは続編のこれに由来しているのではないか、と思われるふしも多々ある。その意味で、続編の時代の人物に触れてあるのは、たいへん参考になると考えられる。
 このように、なかなかよい資料である。予算が許せば購入したいと願うものである。




Takapan
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