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『図説 地図とあらすじでわかる! 聖書』

ホンとの本

『図説 地図とあらすじでわかる! 聖書』
船本弘毅監修
青春出版社・青春新書
\976
2009.5

 2004年に大きなサイズで出版されたものを、新書として販売した。もちろん内容は膨らませてあるのでかつてと同じではないという。
 監修者は、キリスト教世界では有名な教授であり、わかりやすく説明することに定評がある。とくに、「喩え」についての解説がよく知られており、NHKでも講座をもっていた。福音をきちんと伝える視点に立っていて、落ち着いて受け止められる。ただし、一部の福音主義からすると、あまりにも冷静で満足できないかもしれない。近年の文献批判の成果もフェアに取り入れているので、ひたすら聖書の記述を100%歴史的事実だと主張する人々には、不満ではあろう。だが現実的に、聖書はそのように捉えることしかできないとは私は思えない。聖書は「真実」を伝えていることは私の信条であるが、聖書に表面上の矛盾も何もないとは考えていない。監修者も、おそらくそういう立場であるのではないかと思う。
 さて、本は4頁1項目でまとめられており、見易い。しかも、イラストや図表が内容の半分を占めている。随所に地図が取り入れられ、比較対照が適切になされており、聖書の理解をすっきりさせる。学習方面からいえば、実によい「要点のまとめ」となっているのだ。神学生はこの内容をマスターすれば、聖書そのものについては必要なことの90%は理解でき、覚えられるのではないかと思われる。
 実は私もそうした目的で購入した。これは、一度読んで終わりとするべきではない、常に携行しているべきだ、と。そして何かとあっては、必要なことを記憶するようにしよう、と考えた。イスラエルとユダの王の一覧や、そもそも聖書時代の年表など、なにかと開かなければならない図表もあるし、アブラハムからイエスまでの系図一覧など、ありそうでそうあるものではない。聖書を知る方がこの本を御覧になれば分かるように、実に効果的にあらゆる事項がまとめられているのである。ちょっと疑問に思い、比較したいとき、あれは何だったか確認したいとき、たいていのことが掲載されている。お役立ちの一冊だ。しかもサイズが小さいので、どこにでも持ち運べる。私のお気に入りである。
 地図における理解は重要である。イエスの足跡ももちろんだが、事件の成り行きや、該当の町がどこにあるかなど、聖書を理解する上で蔑ろにしてはならないこと、それを知っていれば内容を的確に理解することができると思われる背景などが、この小さな本で容易に確認できるのだから、実にありがたい。
 もちろん、これだけの中に収めるためには、削られた部分も多い。預言者についての記述は極端に少ない。また、教会形成のための動きももう少し光を当ててほしいと思ったが、しかし全体的には、申し分のない本である。とくに政治的な動きや背景については、簡潔にまとめられており、学びのためには適切である。
 最近、なにげない新書シリーズの中に、キラリと光るキリスト教の本が混じっていることがある。キリスト教出版社の仕事も地道ですばらしいのだが、流通ルートが限られていることを考えると、一般書店で簡単に入手でき、どこの書店にも置かれているようなこうしたシリーズの中に、よい本が含まれていることを、私は歓迎する。キリスト教世界も、キリスト教出版社への配慮もあるだろうが、もっとこうした新書や文庫のことを世に宣伝してよいのではないか、と願う。




Takapan
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