本

『聖書事業懇談会講演録1』

ホンとの本

『聖書事業懇談会講演録1』
日本聖書協会
\400+
2017.12.

 日本聖書協会は、2018年に新しい共同訳聖書を刊行する運びになっている。1987年に新共同訳がつくられて約30年を経て、改訂されるということになります。その新共同訳は初めての、カトリックとプロテスタントの合同聖書であり、またパイロット版として「共同訳」があったが、その実験的な試みは受け容れられず、方針すら転換して新共同訳ができたという経緯がある。
 講談社学術文庫で共同訳の新約聖書が出されたとき、私はそれを手にしていた。いま調べると1981年であった。この評判が出て、また方針転換をしたということは、数年で大改訂を行ったことになる。当然旧約聖書も路線変更をしたであろうから、その途では見落としや誤りめいたものも含まれてくることになる。新共同訳にはいくらかの明らかな問題点も含まれていた。
 しかし、それはあまり公には扱われなかった。聖書は誤りなき、という考えが一部に根強くある以上、誤りを公開することができなかったのかもしれない。しかし今回、新しい訳が出るということで、その点も明らかにされた。ここは、新聖書の翻訳に携わった新しいメンバーたちによる、一部の手の内を明かすかのような、講演が掲載されている。
 中には類似の説明もあったりするが、全般的に話として惹きつけられるものばかりで、具体的に聖書の中の新しい訳の試みが紹介されると、身を乗り出したくなる気がした。雅歌やヨブ記の担当者による問いかけや、新共同訳の問題点などもまた、一つひとつ新鮮で、面白い。
 聖書を翻訳するとはどういうことか、そうした哲学的・神学的な問いをするべき場ではなかったと思われるから、そうした点を追究するものではなかったが、いずれまた、神のことばを人間がどう表現するかということや、各国語に変換していくことの意義などにいての考察もあればと願う。しかし、やはりこの講演会はそうした場ではない。新しい日本聖書協会の訳の意義づけや、そのコンセプト、そしてできるだけ具体的な実例を示すことで、その考え方の姿を人々に提示することが目的であったことだろう。
 とくに、訳文決定までの過程がここに紹介されていたのは貴重な資料となった。こればかりは、現場の人でなければ、分からない仕組みであったはずである。かつての新共同訳の時とはどう違うか、ということを含め、今回のチーム作りと数回にわたる改訂やチェックという作業が細かく明らかにされていた。
 中には、ネットで読める原稿もあるのだが、小さなブックレットである。また、価格も今どきの文庫本よりも安い。類書を考えても、これはどうして、と口走りたいほどに求めやすい価格である。どなたにもお薦めしたい。
 聖書翻訳の、理念や神学というわけでなく、具体的にどのようなことが考えられて日本語の聖書が形作られていくのか、を知ることで、聖書をどのように読んだらよいのか、のヒントに実はなるものであることを知りたい。日本語聖書は、偶像ではない。ありがたく拝むためのものではない。それを神のことばと見るのは間違ってはいないが、翻訳は翻訳である。どういう点に気をつけて読むとよいのか、の教示もあると理解すると、なかなかよい「参考書」になると思うのであるが、如何だろうか。




Takapan
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