本

『聖書の常識』

ホンとの本

『聖書の常識』
山本七平
文春学藝ライブラリー
\1350+
2013.12.

 もう亡くなってから20年余りという中で、著者の名著が文庫という形で再び現れた。これだけの時を経てもなお、輝きを失わないのは見事であろう。
 イザヤ・ベンダサンという名でベストセラー作家となったが、日本人を隠して、日本人の姿を描いた。それも、ユダヤ人という立場からのものとして指摘したのが、日本で新鮮に見えた。その内容については、反対者もいて、ユダヤ人がそのようであることはない、とか、自分の創作だから信用してはならない、とか、かなり熱っぽく攻撃もされたが、それほどまでに、この本が大きな影響をもっていた、という証拠であるとも言えるだろう。
 タイトルからすると、内容は、「聖書入門」であるらしい。が、敢えてその名を取らなかった。必ずしも、聖書に初めて触れる、という人だけを対象としたのではないということなのかもしれない。いくら聖書を読んでいても、また、たとえ信じていたとしても、聖書について知らないことはもちろんのこと、誤解をしているということがあるかもしれない。また、常識的なところを抑えていない、ということがあるかもしれない。それは、聖書を曲解したり、自分本位の都合のよい読み方をしたりすることにつながるかもしれない。
 この出版より22年前に他界した著者である。その時代の聖書理解や解釈ということもあり、その後に分かってきたこともある。ただ、神の言葉はとこしえに変わることがない、とあるとおり、聖書の真実が転換するというふうにも思えない。最新の研究や流行とは関係なく、聖書について腰の落ち着いた姿勢をもつということについて、反論する必要はないだろう。いくらかでも分かりやすく、時に具体的に、時に思い切った表現で、説明を切り込んだところも多々あり、決して「当たり障りのない」本ではない。
 文庫形式でコンパクトであるわりには、価格はそれなりに響くほどのものがあるが、一冊もっていて、資料のように携帯しても損はないだろう。とくに旧約と新約とをつなぐ時代についての紹介や、黙示的な文学についての紹介、また、イスラエルの風土についてのコメントなどは、味わいがある。
 パウロについて割いた頁は少なく、キリストについても思ったほど多くはない。むしろ旧約の世界を理解するために、概念的な理解を求めるあたり、日本人の思い込みがちな点について、誤解を解くために多くの頁を費やしているように見える。だから、まんべんなく資料がついている、というわけではないのだが、手強い日本人に対して切り込むために、あるいはどこで理解を外しているか、という点で難しい一般的な伝道の場において、こうした著者の熱意を聞いておくことにより、何かしらヒントが得られるかもしれないという気がする。
 その意味でも、確かにこれは「聖書の常識」なのであった。




Takapan
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