本

『聖書を伝える極意』

ホンとの本

『聖書を伝える極意』
平野克己監修
キリスト新聞社
\1800+
2016.3.

 2009年創刊の雑誌『Ministry』に連載されていた中心的な記事が一冊の本になった。日本の説教者というテーマで、著名な説教者にその説教への思いや裏話などをインタビューした内容が並んでいるというものである。いまそのうちの幾人かの説教がDVDとなって発売されている。
 副題に「説教はこうして語られる」と付けられている。私にとっては、加藤常昭・小林和夫・雨宮慧といった方々は、その著作をいくつも味わわせて戴いており、またテレビやラジオといったメディアでもそのお話や説教を楽しませてもらっている。その他にも名高い説教者が全部で13人名を連ねており、それぞれの方が、生い立ちや救いの証し、そして何よりも、説教観や説教を仕上げるまでの過程などを、おそらく他で語ったことがないような方も、ここで明かしている。その意味でも、これは貴重な本なのである。
 なにしろ、企業秘密を暴露しているようなものなのだ。あの名説教はこうした準備をしてできていったのだ、ということを知ることは感慨深い。原稿をきっちり用意する方もいれば、殆どそれはないほうがよいという方もいる。人それぞれにスタイルがあるものとはいえ、神の福音を語るにあたり、驚かされるような告白もあったように思う。それらをここで逐一並べるわけにはゆかない。
 選ばれた方々は、プロテスタントは多いが、カトリックや聖公会など様々である。プロテスタントにしても、グループを異とし、それぞれに違いがあるわけだが、それよりは、説教者個人の相違というほうが大きいだろうか。
 一人ひとり、人間味あふれる表情を見せてくれており、何も神がかり的な勢いで語っているのではないということが分かる。それぞれ賜物があり、深い学びや修行ではないがそうしたものに匹敵する体験がある点は当然であるにしても、もしかすると私たちもこの方々に近づくことができるのではないだろうかと思えるようになる、そんな本である。説教をするというのは誰にでもできることではないが、何らかの形で聖書の話をする機会があるような人にとっては、具体的に参考になることも多いだろう。そういうのは、一人の著作による方法論が掲載された分厚い本というよりも、このような雑誌感覚で幾人ものやり方が紹介されているもののほうが、まずは近づきやすいし、参考にしやすい。この中の、どの人のタイプに自分が近いのか、感じられるからである。しかしまた、近いスタイルでなくても、この人の考え方、この人の信仰に共感できる、という場合もある。刺激をふんだんに受けるであろうことは間違いない。
 その意味で、それぞれの教会の牧師や伝道師などの方々にとり、この本は手近で実に参考になる一冊となるであろう。具体的に、何をすればよいのか、また行き詰まった時にどうすればよいか、知る思いがする。たとえそのハウツーは分からなくても、同じような問題に悩んだ方々がこうして立派な説教者と言われているということを知ると、慰めにもなることだろう。
 そればかりか、説教をただ聞く立場の信徒にしても、説教者がどんな思いで、どんな労苦を費やして、ひとつの説教を準備しているのか、生み出しているのか、それを知ることは大切である。こうたことを知ると、もう、礼拝説教中に舟を漕いでいる場合ではないと思うに違いないからである。
 説教は、いのちのことばである聖書について話す、人間の話、というわけではない。説教そのものが神のことばである。説教者は、そうした緊張感をもって説教を準備し、語っている。まさに聖霊の通り管となって壇上で語る。語ろうとする。礼拝は、神と人との交わりの場であるし、神からのことばに対しては私たちはレスポンスをしなければならない。上より与えられる力に基づく説教のことばに対して、私たちはまずそれを真正面から受け止め、全身全霊で感じ、それに応えるものを返していくのでなければならない。この本が、こうした私たちの必要ないのちの営みのために、寄与することは間違いない。インタビューとして読みやすいものでもあるし、本当に楽しめる。よい企画に感謝する。そして、だからこそまた、この本を宣伝したいと思っている。




Takapan
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