本

『聖書人物おもしろ図鑑 新約編』

ホンとの本

『聖書人物おもしろ図鑑 新約編』
中野実監修
古賀博・真壁巌編集
\1500+
2016.11.

 旧約編がこの一年前に出版されている。それが好評であったためであろう、新約編が発行された。タイトルの「おもしろ」は、私は必ずしも内容と合っていないと思う。だが、言葉の意味を厳密に考えるよりイメージという点で捉えるならば、このタイトルは成功していると言えるだろう。
 イラストが可愛い。もちろん本当に聖書に登場する人物がそのような顔形をしているというわけではないだろうが、とにかく見て分かりやすいのと、親しみやすいという点で、効果は絶大である。また、これはよく見ると分かるのだが、その記事にしても、相当深い。決して思いつきで企画してできるものでもないし、一部の立場の信仰だけを真実として打ち出す意図もなく、およそ穏当な、しかし最新の研究も踏まえたような形で記述されていることが見て取れる。配慮がよくなされていることに驚くのである。
 また、図を多用し、聖書の内容を視覚的に理解することについても、優れた点を多く見せて戴いた。その説明口調は、ひじょうに親しみを感じる呼びかけ風でもある。かといって、読者に迎合しているというわけでもなく、私の感覚ではバランスよくできているのではないかと思う。
 構成もいい。登場人物ばかりが紹介されているかのような題であるかもしれないが、イエスのたとえ話の特集ページや、福音書記者の特徴などにもふれてある。何よりも、十字架への一週間が細かく辿られているのは、新約聖書を伝える上で最も大切な部分であると言える。後半では、新約聖書各巻の内容をも簡単ではあるが、的確に説明されている。中学生あたりでも、これを手にすれば読むことに困難を覚えることはないだろうし、自然と知識も身につくように思われる。いや、おとなも、かなりいい。礼拝説教を聞くのはいいが専門的な聖書の内容や知識については覚える気があまりなく、またことさらに知らなくてもいいのではないかというままに教会生活をしている大人は、案外多いのではないかと思う。いざ聖書について議論をすると、基本的なこともご存じないというのは、失礼ながら、時折お見かけする。もちろん、信仰という点でその人が神と結びついているならばそれはそれで結構なのであって、なにも誰もが聖書学者にならねばならないわけではない。だが、私の知るところでは、偉そうな論評をする人で、20年にわたり執事を続けてきた人が、どうも人格的に問題があると分かってきていろいろ調べていくと、その人は信仰もなければ聖書についての知識もまるでないということが分かったという事例がある。聖書を、文学の一つとして読んでいたに過ぎないし、まともに説教も聞いていなかったわけなのだが、それが教会の重要な決定に関わり、しかも自己の説を強弁して決めていたというのだから恐ろしい。
 話は逸れたが、こうした本は、教会の読書会で用いてよいのではないかと私は思う。学び会とか研修会とかいうと、さも学術的なレジュメが用意されたり、有名な先生の本がテキストに選ばれたりするのが通例であるが、それはたぶん学習会の本質を見誤っている。要するに文章や読解にまつわる中で知識を整理しても伝わらないからこそ、聖書の知識を得たいと求めているわけである。聖書マンガなどで親しんでよい。マンガだと、内容が頭に残る。もちろん、ストーリーマンガとなると、抵抗がある世代や、慣れていない方もいる。そこへいくと、このイラストによる説明というのは、方法としてたいへんよいものであると私は思うのだ。
 そういうわけで、これは、ふりがな充実で子ども向けとしている表向きの姿にも拘わらず、おとなの聖書の学びに相応しい、というのが私の提案である。早速活用してみる教会があるとすれば、それはよい選択をしていると私は確信する。




Takapan
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