本

『旧約聖書人物図鑑』

ホンとの本

『旧約聖書人物図鑑』
山我哲雄監修
東京書店
\1800+
2021.12.

 表紙にあるのは旧約聖書に登場する人物なのだろう。なんだかゆるキャラのように、頼りない線でのほほんと描かれている。およそ実際の人物には似ていないのだろう。だが、雰囲気を伝えるために、それなりに苦労して生み出したキャラクターであるのだとは思う。全編このような形で人物がイラストで待ち構えており、その横にその人物のおよその生涯や着目点が記されている。黒とオレンジ色だけで統一した見事な構成である。
 親しみやすい、分かりやすいを狙って聖書について知りたいという人に、ゆるくアプローチするものとなっている。最初の10頁くらいはそうした概観であり、こうしたおよその理解というものは、何にしても必要だろうと思う。監修がしっかりしているのか、その概観もなかなかいい。
 それから本編。ここからは、キリスト教サイドの旧約聖書の順に則り、登場する人物が紹介されていく。時折コラムも入るが、最後まで単調な叙述である。つまりはこれ、読み物としては耐えられないだろうが、調べるためには都合がよい、ということになるのであろう。それはそれでよいと思う。
 ただここで、私なりの疑問点を差し挟むことをお許し願いたい。
 一人の人物の紹介は、最大見開き2頁、少ないもので1頁の四分の一となっている。その半分は、例のゆるいイラストである。従って、一番少ない段しか与えられない人についての説明は、ごく一言だけというものになっている。だが、それで十分だという人物も、聖書には多々ある。本書には、けっこう細かなところまで網羅してあるという印象であって、決して有名所だけを集めたものではないというのはよく分かる。
 だが、そのバランスである。どうしてエリシャが最低の領域しか与えられていないのか。アハブとイゼベルも二人でやっと1頁である。聖書における位置づけからすると、これでは足りないのではないか。ウリヤとバト・シェバはなんと、二人で1頁の半分ときた。バト・シェバが王国に果たして役割はかなり大きいと思うのだが、まあこれも仕方がないだろうか。
 対して、モアブの王エグロンが1頁、サウル王の側室リツパも、気の毒な女性ではあるが、1頁もの場所が必要だっただろうか。預言者ヤハジエルも1頁、同じ量をとるアドニ・ツェデクって誰? という印象だ。
 こうした人物評価というのは、個人的な意見に基づくものである場合もあるだろう。もちろん概ね、大切な人は大きく扱われているのであり、てんででたらめだなどと言うつもりは毛頭ない。だから、執筆者あるいは編集者であろうか、彼らの注目点はおもしろいなというのが、正直なところである。監修者がどこまで編集に携わっているのかは分からないが、えてして名前を貸す程度で、序文やまとめのどこかを執筆するくらいであとは目を通す、その程度の関わりしかないのかもしれない。以前、名だたる旧約学者がこのような類の本の監修者となっていたが、中身はお粗末極まりなく、内容的に誤っていることも平気で書かれてあるのがあったので、私はこの「監修」という肩書には眉に唾をつけることにしているのだ。
 問題は、このイラストをよしとするか、許せないかというところにあるかもしれない。本書が、旧約聖書というものを知るための、よい手がかりとなるのであればよいが、と思う。いや、すでに洗礼を受けて信者となっている人に向けて、というのが案外一番よいターゲットであるかもしれない。聖書をちゃんと知らなきゃいけない、しかし聖書をガチで読んでも分からないし退屈する、だいたい読む気になれない、そんなクリスチャンも、決して少なくないと思う。そこへ、本書のような、近づきやすいものが手渡されれば、「そういう人だったのか」と、旧約聖書が好きになるかもしれないと期待したい。
 その人物の関わった旧約聖書が、何書の何章であるということが、括弧付きで示されているのは、まさにそのように聖書と比較することのある人のためであるし、親切であると私は思う。聖書に近づくためのガイド本としては、そうした配慮が必要なのである。
 類書としてよいかどうか分からないが、若者に人気のある、上馬キリスト教会の若い「中の人」が、近年多くの本を発行している。よく勉強しているとは思うのだが、間違いとすべきところや、理解不足の故に大切なところに触れず、どうでもよいところばかり書いているというようなところも見受けられる。特に、哲学についての紹介は、拙かった。高校生の倫理の副読本程度であるが、むしろ有害だとも思われた。その点、本書は内容について特別な問題点を見せることなく、無難にまとまっているのではないかと思われた。
 この手の本は、編集者や監修者の、ちょっとした気づきは本腰をいれるかどうかということで、大きく結果が変わってくるものだ。私は決してこれを読みこなしたわけではないから、あまり無責任なことは言えないが、楽しく読める方にとっては、悪くないものではないかという気持ちでいる。さあ、どうだろうか。




Takapan
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