本

『図説アラビアンナイト』

ホンとの本

『図説アラビアンナイト』
西尾哲夫
河出書房新社
\1890
2004.5

 子どもでも知っている、アラビアンナイト。それが実は子ども向けの翻案に過ぎず、元来オトナオトナした物語だということは、大人になって知った。
 さらに、アラジンやシンドバッドの物語は、本来の『アラビアンナイト』には含まれていなかったということは、ずっと後になって知った。
 そしてこの本に出会うと、その広大な世界に愕然とせざるをえなかった。
 こういうものは、紹介する人の腕がものをいう。説明にしても、ただ文章で説明されても分からないところを、豊富な図版を掲げることによって、私たちは興味をもって読み進むことができる。また、同じ説明でも、難解な言葉や口調で滔々と綴られても、分かりにくいものだが、この本は実にすんなりと、あらゆるメッセージが伝わってくる。
 この力量たるもの、なかなかのものである。
 アラビア文化の背景について、これほどに軽快で、さらに奥深く、理解を深めさせてくれる本はめったにないだろう。
 このアラブの理解は、私たちは、今この世界でのアラブに対する理解へとつながる。すべてをテロリストだと決めつけて宣伝し、またそれを仮想敵国扱いにして、国内統一を図ろうとする一派に対して、「懸命に」現地で活躍する人々がいる。だがすべての人が現地に行けるわけではない。次に必要なことは、現地を知っている人が、アラブについて日本人に紹介することだ。
 もちろん、この本が政治的意図で書かれているとは思えない。しかし、このような形でイラクなどのことを教えてくれる本を読むと、私たちは心の奥に触れるものを感じるであろう。あらためて、文学のもつ力というものは大きいと思う。その意味でも、ペンは剣よりも強いのである。
 それにしても、「開けゴマ」の隠れた意味(118頁)には……。




Takapan
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