本

『イラストで読む 旧約聖書の物語と絵画』

ホンとの本

『イラストで読む 旧約聖書の物語と絵画』
杉全美帆子
河出書房新社
\1650+
2019.2.

 ギリシア神話やルネッサンスなど、その時代における絵画や美術作品を楽しく解説するシリーズのひとつだと言えよう。よく勉強してある方であり、もちろんその本職は美術関係と思われるから、その方面への造詣が深いのであるが、読者を愉しませてくれることにかけては大したものである。
 聖書のことも、ほんとうによく調べてある。旧約聖書だけでもこれだけの内容があるのだから、次はきっと新約聖書についてもこの企画のものが登場するのではないかと勝手に期待している。
 コママンガ形式で、しかしその絵が絵画的な味わいがあるものであって、それなりにストーリーが分かるように配置されており、聖書の必要な場面が切り取られていく。ところどころに西洋絵画がはめこまれ、美術作品としてその話が描かれたことが効果的に理解できる。しかも、その小さな絵には吹き出しなどを通じてセリフが描き込んであり、これが実に愉快だ。個人的に私がやっていることと重なるのだが、絵画にとんでもないセリフを書き込んで笑わせるのである。もちろん、それはストーリーに沿うものであり、たんなるギャグではない。聖書の言葉がちょっとくだけて書かれてあると考えるとちょうどよい。たとえばアブラハムがイサクをまさにささげようとしている場面では、背後からきた天使が「はいっ、そこまで」と言っている。
 ふざけているといえばふざけているのだが、これはかなり楽しい。また、その楽しさを伝えるというためには、相当に聖書を読み込んでいなければできないことであるとも言える。著者の勉強量には感服する。
 さらに、旧約聖書の巻の順は、決して歴史的順序ではない。そこを著者は、イスラエルの歴史物語を通して描くかのように、時代順に並べてひとつの物語を呈するかのように編集しているのだ。中には旧約続編の物語も相応しい位置にはめ込まれている。西洋絵画にはトビアスやユディトやスザンナなどは実のところかなりメジャーなのである。そしてキュロスによる捕囚からの解放と第二神殿の完成については、適当な絵画がないにも拘わらず、歴史を締め括るために、マンガ形式で綴っているわけだから、これは絵画紹介に留まらず、きっちりと旧約聖書を示すという目的であることが伝わってくる。この点もなかなかの描き方であると感じた。
 巻頭には、人物の系図や民族の移動地図も、楽しいイラストで紹介され、これは普通にクリスチャンが聖書を理解するためにも非常に役立つ出来であると思った。もちろん、聖書とは何かという点も、非常に簡潔に、そして相応しい形で最初に紹介されている。これはただものではない。
 その「はじめに」の文章は、次のような言葉で締め括られ、本編に入っていく。
 二千年以上も前に書かれ、宗教、芸術、文学、政治、歴史に今でも大きな影響を与え続ける旧約聖書。この「聖書とは……、いや、まずは旧約聖書とは何ぞや?」という壮大な問いに、私と一緒に立ち向かってみませんか?
 いやはや、見事である。「一緒に」向かおうではないか。著者は「おわりに」にも実によいことを書いている。旧約聖書を一生懸命読むことが大変な作業であり、へこたれくじけそうになったことを告白しながらも、読み終えて、「善く生きよう」との思いが与えられたことを告白しています。ほかにも実に味わい深い言葉が随所に見られますが、聖書に立ち向かった人の素直な感想としても、まことに傾聴するものがあると言えるでしょう。これはクリスチャンとして、聖書をもっと大切に読まなければならないと教えられる本であったのかもしれません。




Takapan
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