本

『トビオはADHD』

ホンとの本

『トビオはADHD』
大橋ケン作・林寧哲監修
明石書店
\1680
2006.12

 どんなに正確に難しい緻密な論証を本に記したところで、読む人が理解しなければその知識は伝わらない。
 どんなに少ない知識しか提供しなくても、嘘でないことを伝えるマンガがあるとすれば、それは大きな影響力をもつであろう。
 要は、それぞれの持ち味というのがあるのであって、どちらが完全に益でありどちらが完全に無用であるなどということはないのであろう。
 マンガで、かなりオーバーに扱われる、このトビオ君という子ども。その日常は、波乱にまみれ、なんとかしようという本人の焦りにもまして、時折訳の分からないことをして顰蹙を買うこととなってしまう。
 が、どういう面がその子にあるのか、どのように対処していくことが望ましいのか、そんなことが、このマンガからよく伝わってくる。かなりギャグ的な仕上がりになっているとはいえ、結局のところ、一般の人々がどのように接していけばよいのかという大切なことが、十分伝わるように描かれているのである。サブタイトルにある「発達障害のある子の世界」が、よく紹介されているのである。
 それは、作者自身が、同様の痛みを味わっているからにほかならない。
 トビオ君を検査する医師もまた、同種の問題を抱えていたことを告白する場面があるが、これはマンガの作者とまたパラレルなのである。
 それがゆえに、たんなるギャグめいた展開が、決して突き放した印象を与えることのない、細やかな愛情が伝わってくる所以なのであろう。
 その意味でも、これは温かなものを運んでくれる、優しい本となった。
 用語の解説などの配慮が行き届いているのもいい。こうした入りやすい本が提供されることによって、私たちは小さな理解を始めることができるし、そこから深いところへ進む道しるべも備えられていることになるので、よい効果を生むのではないかと思う。
 これは、いじめの問題にも光を一筋もたらすことになる理解なのである。




Takapan
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