本

『七つの海を照らす星』

ホンとの本

『七つの海を照らす星』
七河迦南
東京創元社
\1890
2008.10

 第18回鮎川哲也賞受賞作である。長編推理小説として応募されたもののうち、2008年度はこれが選出された。
 そこで、困った。推理小説について、ここでネタばらしを行ってはいけないということだ。では、何をどこまで紹介することができるのだろう。これはまずいぞ、と。
 児童養護施設を舞台に、そこでの七不思議が語られる。七つに分かれた章は、それぞれが一つの謎であることを示している。主人公の目の前で起こる様々な謎。それは、人が殺されるとか金が盗まれるといった犯罪ではない。だが、日常の中の謎として、首をかしげるようなことばかりだ。それも、子どもたち、とくに少女の身の回りでそれが次々と展開される。
 どだい、様々な問題を抱えて子どもたちが集まっている場所である。何か起こらないわけはないという気もするが、それにしても、よく起こる。だが、ひとつひとつ、謎は解明されていく。ただ、どこか判然としない。まだ、謎が残っている状態で、次の話に入っていってしまうのだ。
 これは受賞作であるゆえ、選考者の評も巻末に収めてある。それを見るのもまた面白い。はり見る人により、見る人の立場や好みにより、ずいぶんと意見が違うのだ。ただ、この作品が受賞するに相応しいという点では、一致している。社会的な問題を大きく取り扱った前半に比べて、後半の、学校の怪談的なものが、尻すぼみのようであると酷評している人もいれば、何も欠点がない、と激賞している人もいる。ほんとうに、見る人により、捉え方は様々だ。
 で、これは私の妻の推薦なのである。ミステリー中心の読書をしている妻が、ミステリーなど殆ど読まない私に、ぜひ読むようにと手渡した本である。それで、私も読んだという経緯がある。
 読みやすかった。文体とでも言えばよいのか、会話も説明も、すべてがすんなり流れていく、心地良い書きぶりであった。また、構成がなかなか緻密である。無駄がないように見える。あらゆる伏線が、さりげなく置かれており、破綻がない。酷評した人も、こうした点では批判することがないようだった。
 そして、最後の第七章、この本の表現では「第七話」まで読まなければいけない、と私は言われた。それで、以前ようやく私が第一話だけ読んで一旦図書館に返却した後でも、妻はどうしてもその先を読んでほしい、とまた借りてきたのであった。
 ああ、だからそれがどうしてそうなのか、ここで語ってしまいたい気持ちもする。でも、それはできない。お楽しみに、という具合である。
 ただ、この著者の奇妙な名前にも、実は仕掛けがある、と言うと、やはりネタばらしになってしまうであろうか。




Takapan
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