本

『1週間で正確な音程で歌えるようになる本』

ホンとの本

『1週間で正確な音程で歌えるようになる本』
石川芳
リットーミュージック
\1995
2009.8.

 さてもズキッとくるタイトルである。しかも、そんな一週間でできるならば誰も苦労しないわい、という反論も聞こえてきそうである。
 音程がとれない、というよりも、自分でとっているつもりなのにとれていない、しかもそのことにさして気づいていない、というのが最も手強い問題であるという。本人はいい気になって歌っているのだが、微妙にずれており、音程ができていないという事態が、修正しづらい深刻な状況なのだそうだ。
 それはともかく、この本は、一定のカリキュラムが提案されており、つきあっていくと楽しい。まずはリズム。手拍子を打ってみる。本にはCDが附録としてついている。図書館でもCD共々貸し出してくれる。これを聞くと、やさしい女性の声で導いてくれ、私は男のはしくれとして、なんだかうれしい気持ちでついていくことができる。
 ほんとうは楽譜を見ながら家でするべきなのだろうが、私は車の中でこのCDを聞いてみた。さすがに手拍子はとれないが、ただ聞くだけでも本当に楽しかった。
 リズムに続いて、比較的簡単な音。二つの音程を、CDの音に従って、母音で歌う。アエイオウどの母音でもよいようだ。また、その母音の発音についても、口の開け方などについてちゃんとした指導が行われる。果たしてそれを真似してやってみたそれでよいのかどうかは分からないが、個人でやる限界でもあろうから、それについてはとやかく言うまい。不満ならば、この音楽スクールに行けばよいのだ。
 その音楽スクールの現場で注意しているようなことを、惜しみなく本書では掲載してくれている。様々なケースでの指導の要点が、きちんと書かれている。これを知るだけでもうれしい。なるほど、そういうところに気をつければよいのか。そんなふうに歌ってもいいんだ。そうした思いが次々に出てくる。
 聖歌隊では、それなりに歌っているつもりではあるが、なにしろ私は訓練を受けていない。だから真実なところ、下手なのだ。それでも人前で歌う。これは聞くほうにしてみれば耐え難いことだろうと思う。果たしてこの本でトレーニングすればそれが改善するのだろうか。これがたぶん自分では分からない。だからやはり、本当に直したい人は、こうしたスクールなり、専門的な人のところに行かなければならないだろうと思う。それが分かるからこそ、著者もこのように惜しげもなく秘密をばらしてくれるのだろう。そうでなければ、スクールに人が来なくなる。
 けれども、確かにこの本だけでもかなりのヒントを得ることができる。表紙には「回り道をせずに音痴を矯正する至福のボイス・トレーニング」と書かれている。なんともキツイ言葉ではあるが、確かに回り道なしに、ひとつの理論に沿って、ストレートな導きがあることを感じる。著者も、そのような学びを続けての末のことなのだ。
 実際、様々な直し方はあるだろう。そのうちの一つとして、これはなかなか刺激的である。CDの最後にある課題曲のトレーニングは、さすがにこのCDだけでは満足できるかどうか分からないが、それまでの簡単な音階の練習は、繰り返しこなして、音程の点で少しでも自信がつけばよいと思う。喉の緊張の具合を体験できるだけでも、なかなか優れている。声楽のほうでも、コールユーブンゲンといった練習曲があり、高校のときに学んだが、それよりもさらに基礎的なものとして、本書とCDは、どこかで触れて損はないだろうと思う。いや、これにより、劇的に人生が変わる人もいるかもしれない。ただおらぶ(叫ぶ)だけのカラオケを楽しむ人には、関係ないかもしれないけれども。




Takapan
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