本

『世界の思想書50冊から身近な疑問を解決する方法を探してみた』

ホンとの本

『世界の思想書50冊から身近な疑問を解決する方法を探してみた』
北畑淳也
フォレスト出版
\1200+
2019.8.

 ショッキングピンク一色の表紙の新書。書店でもひときわ目立つ。経済系の書店ではないかと思う。ビジネスや啓発もので刺激を与える。会社のことはいまは拘泥せず、本書の特徴について紹介しなければならないが、これはやはり経済や政治の方面に関わる視座というものがありありと見える。だから「思想書」という触書については、一定のバイアスをかけて捉えなければならない。タイトルの後半は、著者の思い入れだろうから、とやかく言わないことにしておく。
 ユニークな本であることは間違いない。100分de名著というEテレの長寿となった番組があるが、本を取り上げて解説していくものを、100分と言わず、3分で本を探るという具合であろうか。
 哲学的な書物も含まれるが、多くは経済か社会系である。著者の得意分野であろうから、それはそれでよいだろう。しかし宗教については扱えないでいるようだ。ひとつもない、と言ってよい。さて、それが「思想書」であるのかどうか。宗教的視点抜きで、身近な疑問を解決しようというのだから、申し訳ないが、底の浅さが見えている。社会機構や経済原理、またそれを動かすようなものとしての人間心理については、いろいろ参考になる本が取り上げられている。私もそうしたものについては疎いので、名前くらいは聞いていたが読んだこともないし内容も知らないというものが幾つもあって、その紹介があるというと、興味をもつことができた。そのため、役立たない本ではなかったと言える。
 しかし、私の知る本について読んでみるとよく分かるが、なにもその本を紹介しようということでもないし、その本の内容を知らせてくれるというところまではいかないように見受けられるた。つまりは、その本で取り扱われている事柄について、著者の関心に引っかかるところを結びつけ、結局は著者の考えや思うところを、その本を根拠として正しいのだというような構成で、次々と展開していくような印象を与えるものだったように感じる。ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を見ると一目瞭然だが、プロテスタントについての説明はお粗末極まりない。禁欲主義という言葉しか知らないような形で、宗教改革とプロテスタントを説明しきったような言い方をするのである。これでは、高校の倫理の教科書レベルを超えるものではないし、プロテスタントという塗り絵を、素人が一色でベタ塗りしただけのものとなってしまう。カントの『純粋理性批判』に至っては、この本が「統制的原理」と「構成的原理」について書いた本であるかのようにひたすらこれを貫き通し、やりたいことを見つけるための本だと示しているとなると、もうなんと評してよいか分からない。でたらめであるし、これを見て本を手にした人は、詐欺にあったような思いがするだろう。「まえがき」や「あとがき」の哲学やプラトンなどの理解も、こんなものを信用してはならない。遠慮がちに言っているようだが、自分の正しさを強烈に押し出しており、しかも酷い偏見である。
 もちろん、その読み方が許されないなどというつもりはない。どうせ本というものは、読み手が自分本位で理解するくらいしかできないのであるし、客観的に読まなければ意味がないなどと申し上げるつもりはない。しかし、本が主役であるようには全然見えなかったのは事実である。その本で使われている概念を持ち出して、自分の社会観を語っていく本であった、とまで言うと言いすぎであろうか。いや、その概念すら、自分が啓発書を放つにあたりステイタスを輝かせるために利用した、とでも言ったほうが適切ではないかと私は感じる。しょせん、ビジネスの自己啓発のために売ってやろうというところのものであるならば、そういうものとして処すればよいだけの話ではあるだろう。だが、これを真面目に読んだ人が、宗教抜きの思想書がこのようなものだと誤解してしまい、知識を探求したり、本当に真摯に身近な疑問を解決したいために考えていこうとしたりする人を、誤った道に招き、迷子につせるようなふうであるとなると、世間に害悪をばらまくことになる。
 だからよく見ると、著者と出版社は巧妙である。「方法を探してみた」である。これがその方法だ、とは言っていない。これは、著者が独断と偏見で、本を使って自分勝手なやり方で「探してみた」というレポートであるだけである。著者がどう思ったか、の歪んだ理解を滔々と書き綴っているという本なのである。何か突っ込まれたら、タイトルにそう書いてあるでしょ、涼しい顔をするつもりであるのだろう。「探してみた」だけであって、本がそう言っている、などとはどこにも書いていませんよ、と。  それを弁えて、触れて戴きたい。




Takapan
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