本

『四季の花クローズアップ』

ホンとの本

『四季の花クローズアップ』
丸林正則
日本カメラ社
\1680
2010.3.

 接写で花の美しさを再発見!
 本の表紙の中央に、ひどく目立ちはしないが、そのように書かれている。それがこの本の持ち味である。
 つまり、これは対象が花だという写真のテクニックについて書かれた本なのである。カメラについての書店であるし、カメラマンがその撮影方法を明かすというような書き方がしてあるので、その点に間違いはない。
 今やデジタル時代である。私のように、フィルム世代の最後を飾ったような立場の者には、やはりあのフィルム、とくにポジフィルムの醍醐味はなんとも言えない魅力があった。露出を何段階かに分けて撮影し、後で適切なものを選ぶ、という職人技にどのカメラマンも憧れたわけだ。それが今や、加工はよほどのことがない限り撮影後パソコンの側でできるようになったし、第一撮影したものをすぐにその場でチェックできるという、かつては考えられないことが簡単にできるようになっている。撮影コストも信じられないくらい安く済むようになった。当初は、デジタルの性能は銀塩に遠く及ばないという状況だったが、今やその点も克服されてしまった観がある。
 私はすっかりコンパクトカメラで終始するようになってしまった。だが、若干の相違はあるものの、かつての一眼レフでの知識は、デジタル時代になっても基本的には使えるわけで、そういう意味でもこの本は、撮り方において有意義なことが多々あった。悔しいのは、では自分でやろうというときに、コンパクトデジカメしかないことだ。それでも、露出くらいは変えられる。背景に気を遣うことくらいは同様だ。どうしようもないのは、ボケの加減と、レンズ周辺の歪みである。ピントも、置きピンで代用し、測光も置き測光のような具合でカバーするなど、涙ぐましい努力をしている。
 さて、本のことはそっちのけになってしまった。
 いや、カメラ撮影に興味がある方にとって、この本は有意義この上ないことだし、とくに花を撮りたいという方には、またとない教科書となっていることを保証しよう。花はいい。対象として、動かないし、殊更なるシャッターチャンスを待ち望むことも少ないと言える。そして、肖像権もない。そこらを歩けば道ばたの花も、立派な被写体である。また、この本の持ち味である接写となれば、背景が民家でもゴミ捨て場でも、一向に気にしないで美しい花の写真を撮影することが可能となる。そしてもちろん、被写体は文句なしに美しい。生物であるから、何かしら表情や感情を読みとることも可能である。なんとすばらしい被写体であろうか。
 そんな、撮影本位の読み方を、もちろん著者は助ける記述をしている。それでいい。しかし、おそらく著者もまた、それだけで終わってほしくはないだろうと予想する。
 花を愛してほしい。もう、ただその花を見て、美しいと感動したい。それだけの思いが実に大きいのではないか、とすら思えてくる。だから、読者としてこの本を手にとったとき、自分はデジカメのことはよく分からないとか、花を撮影する機会がないとか、そんなことを気にする必要は全くない。
 ああ、きれいだ。
 それだけでいい。この世界には、美しいものがたくさんあるのだ。しかも、すぐ目の前に、振り返った足もとのそこに。空には虹、足もとには花。溜息をつくような美しい相手が、あなたの視線を待っている。あなたに見つめられたくて、あなたと話がしたくて、切なく恋いこがれているかもしれない。この本は、撮影テクニックの本であるのみならず、そんな花々の写真集として、私たちの心を浄化する。こんなにも、静かに命が輝いていることを知るだけでも、この本を買った甲斐があろうというものだ。それだけの価値があるものなのだ。
 もちろん、このカメラマンの癖というものもある。これだけ並べられていると、同じような観点、考え方で狙っているというのが、だんだん分かってくる。だが、口をあんぐり開けて見とれてしまうほど、その世界は美しい。もう、ただそれだけでもいい。そういう気にさせてくれる、美しい本なのである。




Takapan
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