本

『三つの願い●パレスチナとイスラエルの子どもたち』

ホンとの本

『三つの願い●パレスチナとイスラエルの子どもたち』
デボラ・エリス
もりうちすみこ訳
さ・え・ら書房社
\1470
2006.1

 多くを語らせることを許してくれない本である。
 ただ、「読んでください」とだけ言っておけばいいと思う。
 そもそも、開いてすぐに、騒ぐ心が静かになる。2000年秋以来、イスラエルの占領に対するパレスチナ民衆の抵抗運動で亡くなった、429人の子どもたちの名前が列挙してある。
 そう、戦争とか殺し合いとかいうものは、何人死んだなどという数字ではないのだ。そこで死んだ一人一人の人格に対する想像力を、少しでも減じさせてはならないのだ。名前入りで、一人一人数えるということを。
 だから私は、世界がもし百人の村だったらという計算に抵抗を覚えるのだ。死んだのは、%で与えられた人数ではなく、ひとつひとつの人生をもつ人格なのであるから。
 それはともかく、この本は、イスラエル、パレスチナ双方の子どもたちの証言から成っている。日本の新聞社たちはしばしば、事を簡略化させて理解したいがために、これらを宗教戦争だと説明したり、だから一神教は危ないと宣伝したりする。しかし、これらの証言を読めば、それが完全にデマカセであることが分かるだろう。
 そして、ニュースでは伝わってこない、生活の一コマ一コマに及ぶ恐怖と圧迫が、伝わってくるだろうと思う。学校に行くためにどうして毎日2時間も検問を受けるのか。どうして訳もなく殴られるのか。家族が殺されるのか。家が潰されるのか。
 PTSD(心的外傷後ストレス障害)についての理解は必要だが、ここにあるのは、そんなものでの説明を超越している。その中で、多くの子どもたちは、なんと健全で、平和を希求しているのだろう、と感動する。
 ただ、「読んでください」とだけ言っておけばいいと思う。
 著者は、平和活動家として世界を旅する作家である。訳者は、不遇な子どもたちを描いた物語の訳者として、産経児童出版文化賞を受賞するなどの実績がある。この本も、その賞に輝く可能性がある。が、「私たちはいまイラクにいます」という本がそれを受賞したとき、著者の森住卓氏は、受賞辞退をした。「この新聞社からもらいたくない」と。そして産経新聞社に、「この賞を受けてしまったなら、イラクの子どもたちに2度と顔向出来なくなってしまいます」と結ぶ手紙を送っている。→こちら
 私たちが、ただ外野から、パレスチナの地を傍観しているかぎり、私たちが彼らのことをとやかく言う権利も資格も、何もないのである。




Takapan
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