本

『「3」の発想』

ホンとの本

『「3」の発想』
芳沢光雄
新潮選書
\1050
2009.10

 数学教育に欠けているもの。サブタイトルにある言葉だが、まさに視点はここである。コンセプトがはっきりしているのがいい。それが、新書や選書の役割である。ワンテーマであるが、それをかなり深めている。広がりすぎない。数学という、あるいは教育という、広がればどこまででも広がる思想内容を、「3」というテーマに留める。これがこの本の良さであり、分かりやすさである。
 著者自身断っているように、決して理解は簡単でない部分がある。だがそれでいいと思う。数学論文のようなものを見せてもらったも困るが、ちゃんと数式処理をしているというところを見せてもらうことによって、正しい過程でそれが導かれているということが読者にも分かる。その上で、「3」の重要性を知るのである。
 もちろん、数式ばかりが並んでいるわけではない。それはほんの一部である。大部分は、誰にも分かりやすい言葉で書かれている。ただ、やはりある程度数学の素養は望ましい。かなり原理的なことを解いているだけに、知識はともかくとして、一定の理解と教養が望まれる。それでも、たとえば数学や算数を教える身とあっては、切実である。そのくらいの人であれば、難なく読める。私のように、数学を専門的にやっていなくても大丈夫であろう。
 内容は、「3」の重要性に尽きる。「2」しか教えてこない現状を苦く思い、「3」を学ぶことによって、そこから無限にでも視野が広がっていくのに、「2」で止まるのでそこから拡大した理解ができず応用が利かない、ということが繰り返し説かれるのである。それも、数学のあらゆる場面でそうなのだという。それは、数学だからという理由でなく、およそ思索するあらゆる場合にこの発想が必要になる、とまで言うのだから、数学だけの問題ではないことは明らかである。人間のものの考え方全般に及ぶとあるが、それは決してオーバーではない。私は少なくともその点はよく分かるし、共感する。数学教育というものがどこまでどうあるべきか、については素人だけに何とも言えないが、少なくともその人間の思考に及ぼす影響として、「3」の必要なことは、痛いほどよく分かる。「3」がないと、展開できないのだ。
 それはどういうことか。ぜひ、本書をお読み戴きたい。内容の割には、すんなり読める。言いたいことがはっきりしているから、詰まらず最後までいけるだろう。細かなことにあまりこだわらないで読めばいい。
 そう言えば、神も位格として「3」をもつ。おそらく「2」だけでは行き詰まるのだろう。正反合の弁証法ではないが、神の力もまた、「3」において発揮されるのだろう。この「3」は、神の数字だとも言われる。人は「4」である。この「3」と「4」を、加えると「7」になり、掛けると「12」になる。どちらも聖なる数である。
 興味は尽きない。神的なものが、隠れているかもしれない。この本の先に、もっと大切なものが見えてきたら、すばらしいと思う。




Takapan
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