本

『二本指のピアニスト』

ホンとの本

『二本指のピアニスト』
ウ・カプスン
新潮社
\1470
2007.11

 左右の手には指が二本ずつ。足も膝から下がない。1985年生まれというから、まだ二十歳を少し越えたくらい。
 IQも遅れている。しかし、ピアノを弾く。そのピアノが、多くの人を勇気づけている。  昨年秋、長崎の浦上天主堂でコンサートを開いたというから、そのニュースでたしか私も覚えていたわけだ。その彼女、イ・ヒアの生い立ちを、母親であるウ・カプスンが描いたのが、この本である。
 お国柄の違いとでもいうのか、韓国における障害者の扱いとそれに対する姿勢などが、よく分かるように描かれている。どこか個人と個人とでぶつかり合うので、強かにもなれる。必ずしも集団に潰されるというふうではなく、個人的に冷たい仕打ちに遭うにしても、それに対して気にしないという態度で立ち向かえば、歩き続けることができるような書き方に見えた。
 また、夫でありヒアの父親である人も、事故のために障害者となったが、そのことで知り合い結婚した著者は、元看護師、助産師であった。そうした背景もよく伝えられている。ただ、ところどころつながりが分かりにくいところがなかったわけでもない。しかしそれは逆に、本人が確かに書いているのだという間接的な証明になっているようにも思えた。
 もしかすると、この著者が特別に自己主張が鋭いのかもしれないが、たしかに信仰の話になると、韓国の方々は、激しい感情をぶつけてくる。だから、この母親が娘にピアノをさせようと鞭を振るうのも、異文化なのかという気がした。いや、これは喩えではない。本当に鞭というものを振り回して、娘をぶったというのである。
 細かなことをここで明らかにすることはできない。信仰についても表立った書き方はされていない。恰も、韓国社会では、キリスト教信仰はごく当然のものであって、とりたてて書く必要のない生活の一部であるかのようにすら感じられる。
 レーナ・マリアのような信仰的なものを期待するべきではない。むしろ、障害者教育のほうに気持ちが向いていくような、読後感である。終わりの方で、先進国ではなく、障害者が理解されない国でこそ公演すべきではないか、という言葉がある。韓国も、まだその部類に入るらしい。日本はむしろ、進んでいると見たほうがよさそうだ。それはさらに多くの問題を含みつつも、よい方向で捉えていきたいことだとも思った。




Takapan
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