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『はじめての構造主義』

ホンとの本

『はじめての構造主義』
橋爪大三郎
講談社現代新書0898
\760+
1988.5.

 入手したのは、2014年6月発行の第50刷。凄い重版だ。
 これまで気づいていなかったのが不思議なくらい、面白い本だった。
 たとえ1988年であっても、すでに構造主義というものは過去のもののように見られていたはずだ。せいぜい、ポスト構造主義に目を向けるなら分かる。だが、その当時に、堂々と「構造主義」を表に掲げるのは、少しばかりの冒険であったかもしれない。しかしそういうことは、時間が経てば、価値が分かる。
 この現代新書の、新しい哲学紹介には、定評があるように思う。現象学のものも評判がいい。たぶんこれもそうだろう。そう思って手に入れてみた。否、実情は違う。古書店で、安い価格だったのだ。申し訳ない。
 しかし、面白かった。一連の講義のように、話が淀みなく続いてゆくのを聞けばいい。決して眉間に皺を寄せて読みこなそうとする必要はない。もちろん、それなりに内容はしんどい。インセスト・タブーの細かな議論を、完全に理解しようともがくと、案外大変だろうと思う。だが、言おうとしている点を理解しようとするならば、さして驚く必要はない。また、その結論的なことは、本の最後のほうで謎が回収されるので、一里塚として留めておけば有意義だと言えるだろう。
 しかも、問題を絞っているのがまたいい。構造主義というものを伝えるのに、ただレヴィ=ストロースだけを取り上げるのである。この方法でよいと思う。あれもこれも、と説明したくなるところを、一つの穴に絞る。読者は戸惑わなくなる。私も戸惑わなかった。
 ところで、その「構造主義」だが、一定の説明は、世間的になされている。物事には構造があるということに着目する。決して嘘ではない。だが、それでは何がどうなのか、という地図が描けない。本書は、その地図をはっきりと意識させてくれることになる。
 だが、いきなり核心を、とはいかない。まず外堀を埋めるように、マルクス主義や実存主義などから生まれる世界を触り、それからレヴィ=ストロースに入る。いろいろ紹介することも必要であり、まだ目まぐるしく景色が変わる。ズバリ構造主義の本質を得たいという気持ちは、少し抑えて、いろいろな講義内容を楽しんでゆけばよいと思う。
 そして、普通の構造主義の解説とは少し違うのではないか、と私は見た。それは、数学の話がかなり続くのだ。私は幸い、一時は数学の道を目指そうと思ったことさえあるほどで、数式の処理はできないにしても、数学の意義や歴史などについては、それなりに目を通している。ユークリッド幾何学の公理から、非ユークリッド幾何学の出現など、この程度のことは熟知している。
 もうひとつ、構造主義の理解のために準備した話がある。それは、遠近法である。私は絵画や美術の歴史にも関心をもち、イラストや油絵についての基礎は知っている。そのため、ここでの説明に対しても、特に真新しい気持ちは抱かなかった。しかし、この遠近法がどのように現れたとか、という点について、「主体」なるものの規定が伴っていることについては、恥ずかしながら、結びつけて考えたことがなかった。きっとどこかで論じられていたのではないかとも思うが、近代的な世界観ともいえる主観と客観の定立が、遠近法を生んだということについて、面白い話だと喜んだ。これは今後の参考にさせて戴こう。
 平行線の公理が他から証明できず、如何様にも規定可能だという点、それから遠近法が無意識的にも主体を前提とする思考に基づいているという点、こうした暗黙の前提に対して、それがすべてではないこと、その視点を「構造」を見遣ることによって得ることが、レヴィ=ストロースの見出した哲学であった、ということが、本書では楽しく紹介されている。
 最後に、付け足しのように、レヴィ=ストロースの他に、構造主義に数えられる人たちも、簡潔に紹介される。そしてまた、問題のポスト構造主義が、構造主義のどこを超えようとしたのか、という点も説明する。著者の見解によると、それは構造主義を超え他と言うよりも、構造主義が立てた問いやテーマを、なんとか究めたいという営みであるのだそうだ。だから、構造主義の問いは、決して旧く過ぎ去ったわけではないし、いまも続いているのだ、という方向で考えるきっかけを、本書は与えてくれる。
 誤解を避けるために添えておくが、もちろん、『悲しき熱帯』や『野生の思考』がどういうものであるのかも紹介してくれているし、ソシュールの記号論についても、比較的丁寧な解説が加えられている。レヴィ=ストロースが主役だとは言っても、ちゃんと周辺の哲学的な思考をいろいろ紹介してくれているので、実のところ、かなりお得な一冊となっていると思う。
 なんだ、もっと早く出会えていればよかったのに。ちょっと損した気分である。




Takapan
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