本

『キリストにあってひとつ』

ホンとの本

『キリストにあってひとつ』
日本プロテスタント宣教150周年記念実行委員会編
日本聖書協会
\2500
2010.4.

 日本プロテスタント宣教150年の記録である。表紙にはさらに「永久保存版」とも書いてある。なんだかそこに妙に目が向くのだった。
 タイトルにはそれに先立つような形で「主イエスの証し人として」と付せられている。そのような存在として、日本のプロテスタント教会が、キリストにあってひとつとなるようにとの祈りがタイトルにこめられている。
 1859年7月、横浜にてプロテスタント教会の礼拝が最初にささげられた。そこから150年の時を数えた2009年、大きなイベントが開かれたのである。この本は、いわばそのイベントについてのあらゆる角度からの記録であり、その記念誌である。だから、その分厚さからしてかなり安い価格に留まっている。
 しかし、これはたんなるファンの間での資料というわけでもないし、出席者が記念にもっておこうかというような意味での記念の品ではない。
 これは、道標である。
 ある意味で、何周年などという数字は、本来どうでもいいことだ。しかし、人間はそういう数字でも使わないと、有難みを感じなかったり、重要性を覚えなかったりするものである。この150年という月日は、区切りのよさもさることながら、聖書におけるヨベルの年を重ねたものだという指摘をしている人もこの本の中にあった。貴重な機会でもあったし、ここでこれまでの歴史を振り返り、今立っている自分の場所を確認し、これからどこへ行こうとしているのか、これからどうすればよいのか、展望を見出すというのが、この大きな催しにおける共通理解事項であった。
 事は、日本における宣教に関わる問題であるし、人の救いと終末へ向かう時代の足跡である。そして、私の属する教会でもまた共通の問題点を抱えていることから、どう祈りどう突破できるかのヒントがたくさん与えられているものと思った。それで、私はこの本を隅々まで黄色いマーカーを引きながら、丁寧に読ませてもらった。
 どうしても、来賓やゲスト、関係者などへの配慮もあるため、それらが並び掲載されると、単発で様々な意見が統制の取れないままに並んでいるという印象を与えてしまうことがあった。しかし、そうした程度の低いツッコミなどに左右されないであるだけの、太い綱がこの本の中に張られていたことは確実である。分科会では様々なテーマで、実際各教会における課題として立てられているようなことについて、検討されていた。その他、現在日本全国でどういうことが行われているのか、プロテスタント各教会の動きなどがたくさん紹介されていて、興味深かった。特に日本基督教団には私は属したことがないので、その空気や状況については、あくまでも予想と想像に傾くことになるわけだが、それでも見当がつかないわけではない。社会運動やイデオロギー対立などを今や乗りこえて、一致した霊と祈りの中で希望をもって歩もうというのが、大きな狙い所であったに違いない。
 その点、カトリックの大司教も来賓として祝辞を語ったというのは、近年の新共同訳などの動きからも肯ける部分があるとはいえ、なかなか画期的なことであったかもしれない。ただ、その祝辞には、どうしても目に見える教会として一致すべきだという信念が露骨に出ていたのが、カトリック側の意地であるのか、皮肉であるのか分からないが、何もそんなことをわざわざ出さなくてもいいのにという気がした。もしかすると、どうしてもカトリックがそのフランシスコ会訳で脚色している如く、"in Christ"という表現を「キリストに結ばれて」と訳さないと気が済まないところを、この大会が「キリストにあって」と正当な訳を以てテーマに選んだところも、気に入らなかったのだろうか。
 ともかく、もちろん、ここに解決が掲載されているというわけではない。それでも、単なる問題提起だけでもできることの意義は大きい。問いが立てられれば、解決への道はやがて定まるであろうからである。
 この本が、本当にたんなる記念誌として飾られて終わりとなるのか、それとも、これが繰り返し熟読されて何かと教会の方針や歩みのために考えていく場面で度々活用されるようになるのか、それは利用する教会や信徒の側の責任である。なによりも、自分の問題として受け止めることなしには、福音の前進はありえない。
 教会の役員たる立場にある方は、これを読まないではいられないはずである。また、そのように利用されるのでありたい。神は昔何かをなさっただけというのでなく、今もつねに働き続ける神なのである。これからもずっと働き続けるだけの値うちをもって、ここにひとつの記念の道標が置かれることとなった。そしてそこからの舵取りをするのは、いま間違いなく私とその世代なのである。




Takapan
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