本

『世界で一番美しい元素図鑑』

ホンとの本

『世界で一番美しい元素図鑑』
セオドア・グレイ著,ニック・マン写真
若林文高監修,武井摩利
創元社
\3990
2010.11.

 美しい。タイトルに嘘はない。
 元素マニアが、そのコレクションや知るところを惜しみなく公開したものであり、その写真は著者の思いを少しも乱していない。溜息が出そうなほどに美しいのだ。
 元素番号1番から順番に、その謎が明らかにされていく。百科事典のような大きな版に、大きな写真が一面に広がる。しかし偏らない。たくさんの事例を数えるかのように、様々な教養的見地から、その元素について知らせようとしてくれる。
 まず、周期表の説明。これだけで、高校生の化学の学習には余りあるほどの情報となるが、やはりある程度の知識があったほうが読みやすいのは間違いない。必ずしも何も知らない人に教えたり啓蒙したりするという意図ではなく、言うなればマニアが喜ぶような劇場がここに用意してあると捉えたほうが適切ではないだろうか。
 あとは一元素ごとの紹介だ。しかも、そのキャラクターをこよなく愛しながら紹介していくかのように、頁が進んでいく。素朴な原石の写真ひとつとっても写真の撮り方だろうか、実に美しい。また、何に利用してあるのか、身近に見ることのできるようなものも含めて、いろいろ並べられている。鉄や銅のようなおなじみのものはもっと沢山写真掲載が可能であるだろうが、ここは抑えられている。むしろマイナーなものを慈しむかのように提示していく気持ちが伝わってくる。まるで、ひとつひとつが生き物であるかのように。
 馴染みのないものについても、叙述は詳しい。ただ、終盤にさしかかると、そうでもなくなる。放射性元素は、もはや見るものの中に存在しない可能性が高い。この鉱石の中にその原子が一個や二個はあるのでは、という期待だけの写真もある。それがまた味があっていい。ついに、人の名前がつけられたものについては、ノーベルなりラザフォードなり、人物の写真が掲げられるだけとなる。発刊当時、コペルニクスの名を冠した112番のコペルニシウムで最後を遂げるけれども、この先も、確認はされていないにせよ、名前だけは用意してあることが説明されて「?」マークで示されている。ラテン語により、番号を読み上げた仮の名前が用意されているのだ。
 高尚なマニアの手による、学術的な標本の写真集のようである。著者のウェブサイトで、それらのコレクションが公開されているともいうから、一見に値するかもしれない。ユニークで、ユーモアたっぷりの紹介に、ついつい微笑んでしまう。
 だから、こういうのは、知識や興味に関係なく、ただ見ているだけでもよいのである。博物館と呼ぶのが相応しいかもしれないが、実のところ殆ど美術館のようなものなのである。




Takapan
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