本

『「1日30分」を続けなさい!』

ホンとの本

『「1日30分」を続けなさい!』
古市幸雄
マガジンハウス
\1365
2007.6

 ビジネス書であるが、とくに著者は、英語学習法について自信があるようだ。
 抽象的な根性論でもなく、実現不可能な理想論でもなく、その気になれば必ず実現可能な具体的な方法をもたらすところがいい。また、著者自身もそれがウリであるという。以前、ネットの中で、このような学習方法についてけっこう高額な価格でその情報を販売していたそうであるが、このたびそれを本として著したという経緯があるらしい。
 そのあたり、以前から関わっていたわけではないので、詳しいことは分からない。
 この本が有名になったのには、ホークスの王監督が二軍選手にこの本を配ったというニュースが広まった背景がある。ここから何かを学べ、というわけである。
 本当に具体的に、1日30分という時間が人生の中でどれほどの意味をもつのか、一年経つとどれほどの蓄積になるのか、数字で表したという点が良かったのだろうか。とすれば、たったそれだけのことで、この本が認められたというのだろうか。実のところ、このそれなりに厚い本が、一冊を通して言おうとしている具体的なことといえば、おそらくこの時間計算のほかは、ないのである。他は、英会話マスターに役立った自分の経験を詳しく語るばかりである。
 その意味では、いったい何が良かったのか、私にはよく分からない。テレビを見るなというのは、たしかにそれで時間が使えるという意味でも、正しいことを言っていると思う。だが、テレビをそれだけ制作しているという背景には、テレビによってこそ伝えられ、考えさせられ、感じることのできるようなものもあるということである。それらをシャットアウトして時間をつくることで、英語のテープを聴いたり、フレーズをひたすら覚えたりということに費やすことが、はたして最上のことであるのか、私にはやはり分からないと言わざるをえない。
 第一、この時間を、誰かほかの人のために使うという発想が、この本の中にはどこにも見出されなかった。自己啓発という意味ではそんなことは考える必要がないと言われるかもしれないが、時間をすべて自己啓発のために使えというふうにも聞こえるのは、賛同し難かった。とくに、家にいると子どもがうるさいから外に出て学習するのがよい、というふうな書き方がしてあるところは、いったい何がしたくてそんなことが正当化されるのか、この人は何のために家族をもったのか、と著者の品位を疑うほどとなった。
 もちろん、ある資格を取るという目的がある上でのことではあるのだろう。その資格が取れたら、家族も幸福になれるのかもしれない。それにしても、だ。
 その意味では、タイトルにあるだけの、1日30分を何かのために使うよう続けてみるとよい、ということのほか、読んで得られるものはなかったような気がする。まして、サブタイトルにあるような、「人生勝利の勉強法」だとは、思えなかった。




Takapan
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