『一冊でわかる エジプト史』
山崎世理愛・五十嵐大介
河出書房新社
\1700+
2023.11.
これは、各国語のシリーズがあるそうだ。とりあえず手に取ったのは、エジプト史。これは聖書にも関わりがある。とはいえ、本書には聖書のことは殆ど出てこない。そして、現代までの流れがあることがうれしい。古代文明としてのエジプトは有名であるが、それが近代にどうつながってくるのか、通史として書かれたものは案外見ない。世界史の中でちょくちょく顔を出すエジプトではなく、エジプトの地にどっかと腰を下ろして、見える景色を味わってみたい、と思っている人は少なくないと思う。本書はその点で、エジプトに徹した歴史の書であり、ユニークである。
さらに、その時代の日本はどうであったか、小さなコラム形式が触れられているので、私たち日本人にとっては、考える縁となるものである。
読者の関心を呼ぶためにであろう、最初に「4つのひみつ」が掲げられている。初期のピラミッドが階段状だったこと、元奴隷がエジプト王になったことがあること、スエズ運河の利益がイギリスに奪われていたこと、3年間だけだが、シリアと連合したひとつの国の時代があったこと、この4つである。古代と現代とに引き裂かれているエジプトの歴史を感じさせるような取り上げ方だが、これからの歴史で何に注目したらよいのか、地図が置かれているように感じた。これは案外、よい看板であると思う。
本編が始まってしまえば、時代順に解説が続く。特に古代王朝は、よほど詳しい人でなければ、次々と現れる王の名前に戸惑うことだろう。私もそうである。これはいったい誰だ、ということで、目を白黒するしかないのだが、しかしそれには読み方にコツがある。年代を気にしながら読むのだ。紀元前のいついつという情報を頼りに見ていくと、ある程度年表の中に位置づけることができる。もし面倒でなければ、巻末の一覧の年表をその都度参照すると、いくらかは整理しやすいのではないだろうか。
イラストや写真も時折入る。地図も必要に応じて示される。系図もありがたい。必要な情報が、痒いところに手が届くような感じで提供されているように思う。よく通俗本にあるように、見開き2頁に全項目をまとめるようなことをしていない。これはよいことだ。項目によっては、多くの解説が必要なものと、少なくてよいものがあるはずなのに、無理矢理それを一定の枠の中に収めようとすると、当然内容を犠牲にしなければならない。それをせず、それぞれの項目で必要な分量を確保するから、内容に信頼が置けるし、その量によって重要性も伝わってくる。決して学術的なものを見せつけるものではないが、実に淡々とした叙述の中に、信頼性を感じさせてくれる。
全体の分量の半分くらいで、古代エジプト文明が終焉を迎える。カエサルやクレオパトラが登場するが、特別に世間の知見に迎合もしないし、配慮もしない。すべてにおいて淡々と綴ってゆく。私はそれがよいと思う。有名な人を特別扱いすると、読者にはそれしか頭に残らない。しかし本書が伝えたいのは、かの有名な誰それがいた、というような歴史ではない。歴史は、人々がつくる。もちろん、本書も、庶民に光を当てることはできず、政治権力の移り変わりが基本である。だが、エジプトという国を述べるためには、それはやはり必要なことである。できるなら、本書の裏のバージョンとして、エジプトに生きた人々の文化をバックアップするようなものができたらよいとは思うが、本書はエジプト文明、そしてエジプト国家が記され、それがいまの日本とのつながりにも大きく関わってくる。逆に言えば、いまお付き合いをしなければならないエジプトとは、どういう背景をもち、歴史観をもっているのか、弁えておく必要がある、というものである。
そのプトレマイオス朝の滅亡から、エジプトは空白を迎える。次に表舞台に現れるのは、イスラム教が興ってからなのである。そしてイスラムの支配を受けるエジプトが始まる。イスラム教の国、そしてムハンマド・アリー朝の時代を描くと、イギリスの支配下に落ちる時代となる。イスラエルを含む3つの方面にわたり、「イギリスの三枚舌」が始まるのだ。こうしてイスラエルとの関係がちぐはぐなものとなり、その後、現在のエジプトの置かれた情況を叙述することになる。対イスラエルとの戦争や石油問題、湾岸戦争の影響もあり、チュニジアの革命の煽りも受ける。これらの間に、あの「ひみつ」にあったアラブ連合共和国という歴史も刻まれる。
ところどころ小さなコラムや、人物紹介があって、しかもそれは私にとり知らないことだらけで、新鮮な目で見続けることができた。ある意味で表面的なことばかりが書かれてある、と見る人もいるかもしれないが、これだけの予備知識があれば、同じニュースも聞く耳が変わるというものだ。これを世界各国において学んでいけば、大したものである。さすがにそれはしんどいことであるけれども。

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