本

『16歳からのはじめてのゲーム理論』

ホンとの本

『16歳からのはじめてのゲーム理論』
鎌田雄一郎
ダイヤモンド社
\1600+
2020.7.

 ゲームと聞くと、ビデオゲームしか浮かんでこないのが、昨今の子どもたち。カードゲームやボードゲームすら、言われてみたら「ああね」だ。もたろん「マネーゲーム」などはしなくてもいいとは思うが、哲学的な概念としてゲームを考えるのは、大人にはあってほしいとは願う。私たちは、一定のルールの中で言語活動をしているが、それをゲームに比するのである。
 さて、私も鈍いものだから、本のタイトルの「ゲーム」で、哲学の議論が始まるのかと思ったら、開いてみるとそうではなかった。鼠の父子をキャラクターとして、愉快なシチュエーションが設定してあり、そこで事件が起こるが、さあ、君はそれをどう考えるか、という具合に問いかけていくのである。
 そこに明確な答えがあるわけではない。最初は「全会一致」という話題。町内会で、全会一致で初めて議決をするということになるが、果たしてその結果はどうなるだろうか、というようなお話。反対意見をもつ人も、自分一人が反対を言ったがために否決されてしまうというのは、責任を感じる心理が働くので、まぁ誰かが反対するだろう、という思惑で賛成票を入れてしまう。そういうシチュエーションを明示する。
 2020年9月27日のasahi.comに、大坂なおみ選手のマスクの問題がコラムに書かれていて、その末尾に、哲学者アランの言葉が引かれていた。「君が他人の始めるのを待つ限り、誰も始めはしないだろう」と。善いと思うことはあっても、誰かがするだろう、と待つ人間の心理を指摘したものであろう。まさにこの全会一致の反対票も、それに類した心理と言えるのかもしれないが、そのようにして結局全会一致が成立してしまうというからくりを明らかにするものであった。
 ライバル店よりも少し安くして売ろうとする値下げ競走。これを互いにやり続けるときりがない。どこでストップするのだろうか。そのように、自分がこのように反応したら相手はどうするだろうか、を読む。私たちの社会ではありがちな、そして必要な手だてである。また、相手が自分の行動をどのように読んでくるか、それを想像した上で、自分がどうするかを決めて行かなければ、この社会では成功しないという側面も、私たちは知っている。将棋の勝負のような感じもするが、これについて必勝法があるとは言えないだろう。それがあれば、それを知る者が一人勝ちをすることになる。世の中は様々な要素が混じり込み、複雑な様相を呈するのだ。
 こういうわけで、鈍い私もだんだん分かってきた。この本の提唱する「ゲーム理論」とは、経済の世界の考えだったのだ。一律普遍的な法則を探すのではない。しかしまた、たんに構造的な、全体的な理由で決定するものでもない。投資家の心理もそうだが、ほんの些細な人間心理の動きが、大きな動きとなって、世界を変えていくということもありうる世界だ。一人ひとり様々な思惑があり、狙いがある。それらをすべて考慮しても、正しい推理が成立するわけでもないし、成功するかどうかは、殆ど「運」としか思えない事態もあるだろう。だが、それでも、何らかの見解や思惑、方針は成り立つものである。
 「理論」と名がつくように、研究の醍醐味はあるのだろうが、さて、こうしたことに関心をもつ高校生もいることだろう。この16歳という規定は、高校生を狙っているものと思われるが、説明は概して難しい。私の偏見かもしれないが、本書の著者は、説明が決して「分かりやすい」ものではないような印象がある。ちゃんと書いているのはもちろんだ。だが、必ずしも「分かりやすい」書き方がなされてはいないような気がする。いや、これは失礼な言い方をしたことになるだろうか。私の理解力の鈍さの故の呟きであるから、あまり信頼なさらないように。でも、一般の書評を垣間見ると、同じ感想をお持ちの方は少なくないようでもあったのが気になってはいる。まだ若い著者なので、そこを課題とすれば、よい紹介も今後期待できるのかもしれない。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります